ハリル采配に見えた“決断”の難しさ J名将が達した境地「9割思うように運ばない」
9割方、思うようには運ばない采配…だからこそ的中した時の喜びが増幅される
「しかし、それはかえって混乱を招くだけだと判った。そんなことをすれば声が聞き取れない選手たちは、ベンチがなにかパニックに陥っていると勘違いする。だから私は、試合前の1週間ですべてを指示し、試合が始まれば黙ってベンチに座っていることにしたんだ」
Jリーグ初采配となったヴェルディ川崎(当時)時代も、柏レイソル時代も、メンバーを固定せず、チーム内の競争を促し、調子の良い選手を躊躇せずに抜擢した。
「私はベテランの経験と若手のパワーをミックスしたチーム作りを狙った。全員を尊重し、平等の立場で競争を促したのが成功の要因だと思っている」
人を束ねてリーダーシップを取る才能は、現役時代から自他ともに認めるほど際立っていた。生まれついてのリーダーだけに、指導者たちからも「将来は監督になれ」と勧められていたという。
「采配は9割方思うようには運ばない。しかし逆にだからこそ、交代した選手が指示した役割を果たして勝った時の喜びが増幅されるんだ」
2011年に柏で、自身初のJ1制覇を達成。15年から率いるヴィッセル神戸では、J1史上初の同一監督による複数チームでのリーグタイトル奪取に挑んでいる。
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加部究●文 text by Kiwamu Kabe