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ビデオ判定が増える日本ラグビー特有の問題 密集戦になると…世界基準と“立つプレー”の意味に差

忘れてはいけないラグビーの本質「いかにゲームの継続性を守り続けられるか」

 TMOを主題にした取材を続ける中で、忘れてはいけないラグビーの本質も再認識させられた。安全面などを確保するという大前提の上で、選手、チーム、レフェリー等関係者が、いかにゲームの継続性を守り続けることが出来るかだ。リーグワン参入チームのGM(ゼネラルマネジャー)ら幹部数人にもTMOについて聞くと、共通しているのは1試合における多さ、1回の審議の長さ問題視している。従来の企業スポーツから事業化を進める中で、勝敗に繋がる公正で正確なジャッジを求めていい立場のチーム首脳でも、ゲームの頻繁な中断はチームにとっても、観客のためにも歓迎出来ないという声は少なくない。TMOのようなゲームの中断、遅延のときに、レフェリーらの審議する音声を場内に流すことで、観客に何が起きているかを周知させようという取り組みに着手するチームもでてきた。

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 母国に一時帰国していたホニス氏にオンラインで話を聞いたときも、このようなコメントをしている。

「トライの有無等正確な判断、そして選手の安全確保という面では、TMOはますます欠かせないものになっていきます。その一方で、先日エディー(ジョーンズ、日本代表ヘッドコーチ)とも話しましたが、ゲームの流れだったり継続性という面ではTMOの関与は少ない方がいいという意見を聞いています。そして、そのために何をすればいいのかといえば、選手がポジティブな姿勢でプレーして、そこにしかるべきいい技術があれば、自ずとファウルプレーは減っていくはずです。例えばタックルに関しても、しっかりと安全な技術を身に着けていれば反則もTMOも減らせるでしょう。それがゲームの継続性に繋がるし、見応えのあるゲームにも繋がるという話をしました」

 ここまでの検証でも判るように、TMOの増加傾向には様々な背景がある。レフェリー1人の問題ではない、選手、チーム、ルール、技術、そして複数のマッチオフィシャルによる組織としてのレフェリングと、あらゆる環境がTMOの介入するハードルを下げている。だが、だから増えても構わないという理屈があるとしたら疑問だ。TMOを容易に使える状況だからこそ、従来以上にこのテクノロジーに頼らずゲームを進めることの重要性を考えるべきだろう。前述したように、レフェリーの中でも、TMO依存を減らし、目視による自分の判断で笛を吹くことは奨励されているのは明らかだが、現状を見ればまだ十分ではない。繰り返しになるが、問題は個々のレフェリーではなく彼らの置かれた環境だ。従来の取り組みは認めた上で、さらにレフェリーたちが自信と勇気を持って自分自身の笛を吹くことを奨励し、励ましていく環境を作らなければ、依存を減らすことは難しいのではないだろうか。

 最後に“暴論”を書いておこう。レフェリーやチーム、選手の中には受け入れ難い主張かも知れないが、レフェリーの目視によるミスジャッジはラグビーにあっていい。プロアスリートにとっては、1つのミスが自分自身のキャリアや人生も左右するものと考えればとんでもない話だ。笛を吹かれる選手、吹く側のレフェリー側の主張なら、ミスは深刻で重大な問題だ。だが、スポーツは選手やレフェリーのためだけに存在価値があるのではない。そして、どんなに高度に組織化され、収益性が構築されたとしても、スポーツの原点はPlay the Game、つまり「遊び」という側面が欠くことの出来ない要素として存在して、ビジネスや政治、文学とも異なる魅力で人を惹き付け続けている。

 勿論、のべつ幕なしにミスジャッジすることは許されないが、レフェリーのジャッジもラグビーという「遊び」の一角なのだ。リーグワンがプロ化への一歩となる事業化へ踏み込んだという観点から考えても、チケットを購入してスタンドに来るファン=顧客に、より商品価値の高いゲームを提供することは重要な存在価値であり、それが80分の間に何度もプレーを止めて、ビデオ上映を見させられることではないのは誰でも理解出来るだろう。

 長々と紹介してきたTMOを引き起こしてしまう多くの要因に、これからどう対処していくかという課題に挑みながら、日本ラグビー協会および協会ハイパフォーマンス部門レフェリーグループに期待したいのは、現役レフェリーたちが自分の判断で笛を吹くことを、従来以上に強く求め、励まし、後押ししていくことだ。「懸念」と書いたが、もしレフェリーの中に依存という空気感が広がっていることがTMOの回数を増やしている要因だとすれば、新たな薬でも開発しない限り有効な“処方箋”は限られている。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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