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ビデオ判定が増える日本ラグビー特有の問題 密集戦になると…世界基準と“立つプレー”の意味に差

グレーゾーンのプレーもレフェリーによる“目視”を難しく

 世界最高クラスのレフェリーが担う6か国対抗やSRPと国内リーグを比べるのも酷だが、海外のトップレベルの大会では、レフェリー自身が自分の目視でしっかり判定しようという姿勢を持ち続け、さらに密集戦でも多くの選手が立ってプレーするためボールを目視し易いのだと考えられる。日本でも、リーグワンの大半のチームが外国人コーチを採用して、多くの外国人選手もプレーする中で、20年前に比べれば「立つ」意識は高まっているが、傾向としては未だに格差を感じる部分だ。

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 それに加えて、グレーゾーンのプレーもレフェリーによる“目視”を難しくしている。2年前のコラムでも紹介したものだが、一部のチームでは、試合前にTMOに使うカメラの位置を確認した上で、試合中にトライライン前の防御で選手に敢えてそのカメラとボールのある密集の間に立ってプレーするように指示をしていると聞く。もし、トライか否かギリギリの状況が起きTMOが介入した時に、トライ成立を証明する映像を撮らせないためだ。先のレフェリーOBもこう指摘する。

「ポジショニングの問題はあります。昔はレフェリーに(密集を)回り込んでもボールを押さえたかを見ろとアドバイスしていたが、いまそれをやっているのは選手です。カメラがある位置に回り込んでいる。だから余計に見られなくなっている。そうすると、今の若いレフェリーたちは『TMOやりましょう』という判断になる。でも、撮られてない場合もある。こんなことの堂々巡りなんですね」

 このようなレフェリーを取り囲む環境や状況もTMOの増加を招く大きな要因だが、プレーを撮影する機材など技術的な部分にも課題がある。日本人特有の、あらゆるものに細部に渡り拘るような性格がTMO介入の多さに影響しているのではないかという質問に、ホニス氏はプレーを撮影、検証する機材などテクノロジーの問題もあると指摘する。

「TMOにかかったプレーの確認という所に関しては、おっしゃる通り日本人の細かさもあると思う。ここは、幾つかのパーツに分けて考えるべきだと思うのだが、先ずリプレーを見る時間は長過ぎるとは感じています。その背景にあるのが、ビデオ映像を再生するスピードだと思います。再生してくれている担当者は中継側のスタッフで、ラグビーの知識やバックグラウンドのある人ばかりじゃない。スポーツ中継を考えれば、日本では野球やサッカーに精通している人材は多かったとしても、ラグビーはそう多くない。例えばレフェリーやTMO担当者から2つ前のラックを見せて欲しいと頼まれても、すこし手間取ってしまうケースもあると思います。そこに、日本人の生真面目さもあり、何度も再生映像を確認してジャッジする傾向があると、審議時間はさらに伸びてしまうのです」

 ホニス氏の指摘する通り、TMOの多さに加えて「長さ」という課題も間違いなくあるのだが、そこには動画再生という技術面が大きく影響しているのだ。TMOで使われる動画は、基本的には中継用の機材による映像をリーグ側が使わせてもらっているのだが、先のレフェリーOBもホニス氏の考えを補完するような経験談を聞かせてくれた。

「以前スーパーラグビーを視察したが、撮影やビデオのオペレーションを担当するスタッフは、かなりラグビー映像の扱いに長けている人材が多い。レフェリー側がここを検証したいと思うようなシーンについては、しっかりと撮影してくれているし、事前に映像にチェックを入れて再生し易いようにしている。だからTMOで検証したいシーンを直ぐに取り出して、再生してもらえている。再生までにかかる時間が短いのです。日本でも、ラグビーの知識のある中継スタッフもいますが、そう多くはない。1日3試合、4試合あり、他の競技の中継もあれば、そんな人材がカバーするのが難しいこともあるはずです。結果的にTMOのビデオを確認する時間が長くなり、観客の方たちもTMOの回数が多いように思われるのではないか」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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