ビデオ判定が増える日本ラグビー特有の問題 密集戦になると…世界基準と“立つプレー”の意味に差
熱戦、好ゲームが続くラグビーのNTTリーグワン。シーズンを折り返した中で、今季増加傾向を見せるTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)について前編では様々な視点から検証してきた。後編ではレフェリー以外の日本特有の要因も踏まえながら、ラグビーに欠くことが出来ないゲーム性をいかに持ち続けるかを考える。(前後編の後編、文=吉田 宏)

リーグワンで導入されたTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の検証後編
熱戦、好ゲームが続くラグビーのNTTリーグワン。シーズンを折り返した中で、今季増加傾向を見せるTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)について前編では様々な視点から検証してきた。後編ではレフェリー以外の日本特有の要因も踏まえながら、ラグビーに欠くことが出来ないゲーム性をいかに持ち続けるかを考える。(前後編の後編、文=吉田 宏)
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TMOの増加という懸念は、レフェリーばかりの問題ではない。それは選手側の、しかも日本のラグビーならではの問題だ。ラックのような密集戦で自立出来ていないプレーがリーグワンを始め日本では未だに多い傾向が、TMO介入に影響している。
リーグワンと並走するように開催中の南半球のスーパーラグビー・パシフィック(SRP)を見ていると、ラックやラックが形成されていないような密集でも、多くの選手が立ったままプレーしている。それに対してリーグワン等国内のラグビーでは、どうしても倒れ込んでしまう選手がいて、ラグビー用語でいうパイルアップ、つまりグラウンドに重なり合うような場面をよく目にする。このように多くの選手が倒れ込むことで、レフェリーが詳細を確認する必要があると判断してTMOを導入することになる。
ブレークダウン等の密集戦で倒れ込んでしまうプレーは、その国々でのラグビースタイル、指導方法、伝統にも起因している現象だろう。国際舞台では伝統的に体が小さく、フィジカル面で不利だった日本は、タックルのような接点やスクラムなど、コンタクトが生じるプレーでは低さでパワーに対抗してきた歴史がある。日本以外の代表チームでも多くの選手が低いプレーをしているが、日本はそれ以上に“低さ”への拘りを持ってプレーしてきた。
その一方で、世界基準では倒れ込むことがラグビーのゲームを損ねてしまうと考えられてきた。低いプレーは「いいプレー」でも、倒れ込むことは「悪いプレー」なのだ。そのため、多くの国では「立ってプレーすること」をラグビーの前提として教えられてきたが、日本では反則ではない限り、倒れ込んでボールを確保することもスキルの一つという風潮が長らく容認されてきた。大袈裟にいえば、立って生活をする西洋に比べて、畳に座って過ごす日本人のほうが地面に近いライフスタイルを続けてきた文化的な違いも、低いプレー、寝たままプレーすることを容易にしたのかも知れない。
現状のリーグワンでも、例えばトライ目前のゴールライン(トライライン)を跨いだ密集戦などで、攻守両軍の選手が折り重なるようになることで、レフェリーもボールがどこにあるのかを判別し難い状態が頻発している。ホニス氏は、このような日本の倒れ込むプレーについてはこんな見解をみせている。
「TMOを入れなければ見にくいという状況までなっているとは思わないが、(日本のラグビーが)地面に倒れがちというのは、その通りだと思います。なのでレフェリーには、そこをきちんと指摘したり、厳しくジャッジするように常々話しています。立ってプレーすることを促し、倒れ込むような状況でも、飛び込まないで、しっかりと自立して押し込むようにさせ、出来ないなら裁いていくようにさせています」
勿論、海外でもこのような倒れ込むプレーはあるのだが、SRP、6か国対抗レベルの大会では、複数の選手が密集状態でインゴール(トライゾーン)になだれ込むようなシーンで、レフェリーがトライか否かをTMOにかけることはほとんどない。前編で紹介した3試合で8回のTMOが起きた6か国対抗第4節では、ゴールライン(トライライン)を挟んだ密集戦でのトライ確認にTMOが導入されたのはわずか1回だった。リーグワンでも18回のTMO介入があった10節は、密集状態でのトライか否かの判定でのビデオ確認は2回のみだったが、それ以外に4回のTMO介入はトライに繋がるプレーでのパスミスなどのチェックのために適用されていた。