続出する中断、1節計18度も…ラグビーも採用した「ビデオ判定」の検証、依存傾向の裏にレフェリーの課題
ラグビーの国内最強を争うNTTリーグワン・ディビジョン1は、1週間の“折り返し”休止期間を経て3月14日から後半戦(11節)が再開された。前半戦を終えてどのチームもプレーオフ進出の可能性は残し、熱闘が続く中で、ピッチ上ではTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)と呼ばれるビデオ判定によるゲーム中断が目立っている。プロ化が進む中で、公正な裁定や、選手生命を脅かすラフプレー防止のためには重要さも増えるTMOだが、ゲームが頻繁に寸断されることによりラグビー本来のゲーム性が損なわれる危惧もある。リーグ、チーム、レフェリー側の取り組み、認識を検証しながら、TMOが増えている要因、そして試合にどう介入させるべきかを考える。(文=吉田 宏)

リーグワンで導入されたTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の検証前編
ラグビーの国内最強を争うNTTリーグワン・ディビジョン1は、1週間の“折り返し”休止期間を経て3月14日から後半戦(11節)が再開された。前半戦を終えてどのチームもプレーオフ進出の可能性は残し、熱闘が続く中で、ピッチ上ではTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)と呼ばれるビデオ判定によるゲーム中断が目立っている。プロ化が進む中で、公正な裁定や、選手生命を脅かすラフプレー防止のためには重要さも増えるTMOだが、ゲームが頻繁に寸断されることによりラグビー本来のゲーム性が損なわれる危惧もある。リーグ、チーム、レフェリー側の取り組み、認識を検証しながら、TMOが増えている要因、そして試合にどう介入させるべきかを考える。(文=吉田 宏)
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シーズンを折り返したリーグワンだが、好ゲームが続く一方で気になるのがTMOの多さだ。顕著な一例を挙げれば、3月1日に行われたディビジョン1第10節の3試合だ。この1日だけで合計10回のTMOが実施されている。同日、南半球で行われたスーパーラグビー・パシフィック(SRP)では、同じ3試合でTMOはわずか2回だった。
3月1日のTMO回数は極端な数字かも知れないが、このような傾向をレフェリーサイドはどう受け止めているのか。ニュージーランドでレフェリーとして活躍して、現在は日本ラグビー協会でレフェリー育成を担うポール・ホニス・ハイパフォーマンスレフェリーコーチに聞いた。
「数字(回数)自体は決してすごく高いわけではないと思う。我々の持っている統計でも、他のプロチームによる大会と比較したものがあるが、概ね平均くらいで必ずしも高くない。ただ、今季増加傾向にあるのは、そうなのかも知れない」
増加傾向を認めつつも、傑出してリーグワンでTMOが多くはないというのがレフェリー側の認識と考えていいだろう。TMOについて議論する前提として、先ずこのテクノロジーの導入の経緯、そして制度自体の是非論を確認しておこう。
TMOが世界規模で導入されたのは2003年。オーストラリアで開催された第5回ワールドカップ(W杯)で初めて採用され、各国リーグでも導入されてきた。従来、レフェリーと2人のアシスタント・レフェリー(AR)がジャッジしてきたものを、より正確性を持たせるためにビデオ映像でチェックしてサポートする。サッカーのVAR、プロ野球のビデオ審判など、賛否のある中で他競技でも導入されてきたシステムと似たテクノロジーだ。
日本では2008年のテストマッチで初めて導入され、同シーズン中(09年)に国内リーグ(トップリーグ・マイクロソフトカップ)から使われるようになった。リーグワンの規約では、公式戦のために必要な人員をレフェリー(1名)、AR(2名)、ピッチコントローラー(選手交代などの確認担当、2名)タイムキーパー(1~2名)、TMO(1名)と定義している。ピッチ周辺に複数のカメラを配置して、モニター室にいる担当レフェリー(TMO)が必要に応じて様々な角度から撮られた動画を検証する。レフェリー自身および上記したレフェリーグループの総称としてマッチオフィシャルとも呼ばれている。カメラの設置などによる経費や技術的な理由で、日本でも地域リーグや大学リーグ等では導入されていないが、プロリーグ、代表戦などでは世界基準で定着している。
ビデオチェックのため中断される時間は概ね1、2分程度。審議中は、会場の大型スクリーンでも検証しているシーンの映像が何度も再現されるのをハラハラしながら見守るファンもいれば、本来は前後半の40分で、刻々と連続していくプレーを楽しむのがラグビーの醍醐味だと捉えるファンにとっては苦痛に他ならない。