元五輪ランナーが日本の子供の足を速くする スプリント指導のプロ集団「0.01」とは
「走らせまくる指導」に警鐘…子供の指導現場の問題点とは?
果たして、子供の指導の現場において、問題となっている点は何か。「それは、走らせまくることです」と伊藤氏は言い、練習で長い距離や多い本数を課すことに警鐘を鳴らす。
「人間が全力疾走した時、ウサイン・ボルトなら最高速が出るのは60メートル付近だけど、小学生は20~30メートル地点でトップスピードを迎える。その後は誰でも速度が低下する。小学生に100メートル以上の距離を走らせると、ほとんどの場合、だんだんとフォームがバラバラになってきて、短距離走の動きではなくなってしまいます。また、距離が長い分その距離に慣れることや練習量を多くすることでタイム短縮が可能になります。そのような練習は中学、高校からで十分です」
さらに高負荷なトレーニングを課すことは、故障や燃え尽き症候群の引き金になりかねないという。
「例えば、イベント的に1本200メートルを全力で走ろうというのはまだいいのですが、1周200メートルの100メートルをケンケン、残り100メートルを反対足のケンケンで帰ってこい、という練習を目にしたこともあります。これは大人でも相当キツイ。子供は一生懸命にやってしまうけど、動きが崩れた中でハイパワーの動作を繰り返すと怪我にもつながるし、キツイ練習をやりすぎると、子供のうちからバーンアウト(燃え尽き)してしまう。良くない面はいろいろあると考えています」
では「0.01」において、どんな指導を施していくのか。小学生を対象とした定期クラスを設け、「動きの改善により足を速くすることを突き詰めていく」と構想を掲げる。
「まずは姿勢が大事という話をします。立って良い姿勢を取るのは比較的簡単だけど、走って良い姿勢を取るのは難しい。片足が接地した時、姿勢が崩れていると一気に進めなくなる。ただ真っすぐというよりは、力が入る姿勢を取らないといけない。あとは地面に着いた瞬間にどう跳ね返るか。走るというと足を後ろに蹴って前に進むと思う人がほとんどですが、本当は片足でのジャンプの連続というイメージです。地面からうまく跳ね返って、ジャンプできることが重要。それを一歩一歩、実践していくのが良い走り方と言えます。常に良い姿勢で弾んでいく感覚を走りの中に落とし込む、その感覚を掴むための練習を取り入れていきます」
「0.01」の指導においては50メートル以上は測定以外に走らせず、10~30メートルの短い距離で「走りのテクニックを変える」ことを念頭に置いている。