「夏の最後ね、主将が『先生、今年は…』と」 早大に誤算、内政干渉せず帝京大4連覇に尽力した陰の名将
帝京大は強化体制の整備、強さの永続性でも着実にバージョンアップを続けている
ピッチ上で勝利への大きな追い風になったのは、やはりスクラムだろう。この決戦で先発の1番(PR)、2番(HO)を揃って入れ替えるのはリスクも大きいが、先にも触れたように相馬監督は「リザーブに回った2人が弱いわけじゃなくて、いろいろな(スクラムの)印象がついていたり、入れ替えることで真っ新な状態で見ていただきたいという思いで入れ替えることにした」と決断。ファーストスクラムで早稲田が真っ直ぐに組まない「アングル」で反則を取られたことで、帝京フィフティーンにとっても過去2試合で苦戦を強いられた懸念材料が拭い去られたのは大きかった。
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早稲田も開始10分あまりの連続失点で0-14とされながら前半途中から巻き返し、後半2分には15-14とリードを奪ったのは、ここまで唯一の全勝を続けてきた地力をみせた。個々のタレントをみれば、早稲田には日本代表でも先発FBにも起用された矢崎由高(2年=桐蔭学園)、同じく代表を経験したHO佐藤主将、力強いランとパスが武器のCTB福島秀法(3年=修猷館)、そして11月の帝京大戦で5トライを奪ったWTB田中健想(1年=桐蔭学園)と一発でトライを奪えるタレントが各ポジションに揃っていたが、帝京防御陣が粘り強さで応戦していた。1回有効なブレークを許しても、次々にカバー防御に返りトライまでは行かせない。しぶとく、愚直に刺さる真紅のジャージーを見ながら、岩出部長が監督時代に語っていたことを思い出した。
「ウチの子(部員)でね、『ラグビーやってます』だけで肩で風を切って生きていけるのは、松田力也や姫野和樹(共にトヨタヴェルブリッツ)のように一握り。ほとんどは、社会に出て職場で『彼に頼めば一生懸命、真面目にやってくれる』と言われるような人間に育てないとね」
そんな話をピッチ上で体現するように、実直に、ひたむきにプレーする帝京ラグビーの真骨頂がスター軍団相手に炸裂していた。スクラムとタックルで優位に立てれば、勝利のためのシナリオの大半は手中に収めたようなもの。実力はそう大差がない両雄がダブルスコア以上の結末を迎えたのも、そのような要因が響いたのだろう。
帝京大ラグビー部にとっても、大田尾監督の下でシーズン毎に力を付けてきた今季の早稲田にどう勝つのかが勝負となったシーズン。最後に宿敵へのリベンジで優勝という夢をかなえたが、今季の勝利が、この真紅のジャージーの「これから」も感じさせた。先にも触れたように、岩出―相馬という2代の指揮官がチーム強化に取り組む中で、チームを支えてきた様々なスタッフが、様々な形で今も学生たちをサポートし続けている。この人脈が、帝京大ラグビー部を今季の一過性だけではなく、継続的な強化、進化を支えていくシステムになり始めている。
敗れた早稲田も先発FWの半数、BKもSH細矢聖樹(4年=國學院栃木)以外全員が来季も残る若い布陣でここまで辿り着いている。両校とも先の花園(全国高校ラグビー)で活躍した好素材が大挙集まってくるのも決まっている。他にも捲土重来を目指す明治大や、関西の雄・京都産業大らも含めて、大学ラグビーの覇権レースが過熱する中で、4連覇を果たした王者は、強化体制の整備、強さの永続性でも着実にバージョンアップを続けている。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)