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「夏の最後ね、主将が『先生、今年は…』と」 早大に誤算、内政干渉せず帝京大4連覇に尽力した陰の名将

スクラムで早大の反則を誘い喜ぶ帝京大フィフティーン【写真:中戸川知世】
スクラムで早大の反則を誘い喜ぶ帝京大フィフティーン【写真:中戸川知世】

敗者の“強化の上昇曲線”が決勝で追いつき…相馬―岩出コンビの手腕が結実

 決勝キックオフ目前の、グラウンドを使ったウォームアップ。メンバーを見守るスタッフ陣に注目した。岩出顧問も相馬監督とともに選手の真横で練習を見つめていたが、近くには岩出監督時代にスポットコーチとして何度も来日していた元フィジー代表主将グレッグ・スミス氏や、岩出前監督と同じ日体大OBで、埼玉・熊谷工高監督として全国制覇を果たした塚田朗氏ら、これまで様々な形でチームに携わってきた人たちが並んでいた。
 
 スミス氏は、ニュージーランドのスーパーラグビーチーム・チーフスでも主力HOとして活躍して、フィジー代表主将として日本代表を何度も苦しめた名選手だった。その国際舞台での高い経験値を、大学生に落とし込み、相馬監督も「ボール争奪のところで意見を貰えたし、他のコーチの足りない部分を埋めてもらうようなアドバイスを貰えた」と強化面でのプラス面を指摘した。ここ数年は来日していなかったが、岩出部長からの「ああいうコーチを呼んでみたら」という進言で相馬監督が決勝戦までの5週間あまりの期間でスポットコーチを任せた。

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 塚田氏については、過去に相馬監督に「大学の常勝軍団に高校ラグビーの指導者が必要なのか?」と聞くと「高校チームをあそこまで鍛えた先生方は、基本プレーの大切さをよく理解している。教えるノウハウも持っている。力を貸してくれる」と、その存在価値を語っていた。まだまだ幼さも残る下級生を、教育的な側面でサポートする役目も期待しているはずだ。

 このような新旧コーチ、スタッフの顔ぶれを見て感じたのは、岩出監督を中心に帝京大が大学最強チームへと進化していく中で、チームに貢献した顔ぶれが再び集結して、今季2戦2敗の早稲田との決戦に挑む選手たちを支えている構図だ。早稲田や、準決勝で帝京に屈した明治大が、長き伝統と強固なOB会の支援で監督、コーチの人選や、強化を支えてきたのに対して、OB会という強い地盤がまだ築けていない帝京大は、“岩出ファミリー”が総出で選手を支え、伝統校に対峙しようとしているように映る。

 大学選手権を勝ち上がる帝京大を見ていると、明らかにスクラム、ディフェンスと段階的に戦闘能力を高めてきたという印象だ。夏合宿最後から徐々に強化に手を貸していった名将の教える勝つための要素が、1つ1つ落とし込まれていったように映る。百戦錬磨の勝負師でもある前監督には、どのタイミングで何を選手たちに教えればチームの戦闘能力が上がっていくかというカレンダーを組み立てるのは、そう難しい作業ではなかっただろう。後は、選手たちが、どこまで今季最強の相手だった早稲田を相手に、しっかりとパフォーマンスを出せるかが勝負だったはずだ。フィフティーンはシーズン最後の80分で期待に応えた。

 伝統的には、敗れた早稲田大が、シーズンを戦う中で力を高めていくチームだった。だが、今季は夏から帝京大を圧倒する程の力を持ち続けた早稲田に、敗者の“強化の上昇曲線”が決勝戦で追いつき、乗り越えたように思える。相馬監督・岩出顧問コンビによるピリオタイゼーションが最終決戦で結果に結び付いたような勝利だった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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