「夏の最後ね、主将が『先生、今年は…』と」 早大に誤算、内政干渉せず帝京大4連覇に尽力した陰の名将
ラグビー大学選手権は帝京大の優勝で幕を閉じた。4連覇を果たしたとはいえ、8月の夏合宿(14-38)、11月の関東大学対抗戦(17-48)と連敗した相手に、大学日本一を決める最後の大舞台で33-15とダブルスコアでの王座防衛。夏、秋と負け続けた宿敵を打ち負かすまでに、チームには何が起きたのか。監督という最前線から1歩引いた立ち位置でチームをサポートしてきた名将の言葉から、帝京大の優勝を振り返る。(取材・文=吉田 宏)
今季は夏、秋と負け続けた宿敵に雪辱 前監督・岩出雅之顧問の言葉から振り返る優勝
ラグビー大学選手権は帝京大の優勝で幕を閉じた。4連覇を果たしたとはいえ、8月の夏合宿(14-38)、11月の関東大学対抗戦(17-48)と連敗した相手に、大学日本一を決める最後の大舞台で33-15とダブルスコアでの王座防衛。夏、秋と負け続けた宿敵を打ち負かすまでに、チームには何が起きたのか。監督という最前線から1歩引いた立ち位置でチームをサポートしてきた名将の言葉から、帝京大の優勝を振り返る。(取材・文=吉田 宏)
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激闘、そして表彰式を終えた帝京大フィフティーンが大学関係者、チームスタッフらを次々と胴上げする中で、岩出雅之前監督(現顧問)も宙を舞った。
1996年に監督に就任。2009年度の大学選手権初制覇から退任した21年度までに優勝10度と、帝京大を国内屈指の強豪に鍛え上げた指揮官から、昨年12月にこんな話を聞いた。
「夏の最後の最後ね。主将の青木(恵斗、4年=桐蔭学園)が『先生、今年はグラウンドに来てくれないんですか』と言ってきた。そこから、ちょっとやり始めたよ」
1歩引いた立ち位置で、後任の相馬朋和監督を支える岩出顧問だが、20年以上に渡りチームを強豪校、常勝軍団に鍛え上げてきた歴戦の名将としての勝負勘は健在だ。後任を託した相馬監督のチーム作り、指揮ぶりを尊重しながらも、夏合宿で早稲田に完敗した直後のチームに、自身の経験値、勝つためのノウハウを段階的に落とし込み始めた。とはいえ、大学のラグビー部の運営、組織としての繊細さやバランスの難しさも熟知するベテラン指導者は、自分からの内政干渉は考えていない。
「勝手にしゃしゃり出ても、迷惑だよね。話を聞く気もないでしょう。選手、チームが本当に何かを求めている時にサポートするのが大事だから」
実績、経験豊富な前監督が前面に出過ぎてしまえば、まだ大学指導者としての経験値を積み上げている相馬監督を中心とした組織のバランスが崩れてしまう。そこを配慮しながら、自身の経験値をチームに伝えていった。詳細は語らないが、宿敵に完敗したチームを、勝てるチームに変えるためには何が必要かというアイデアは、熟練指導者の引き出しに詰まっている。日本代表PRだった相馬監督も交えてスクラムを整備し、チームの伝統でもある厳しいタックル、そしてライン攻撃の精度アップと、勝つために必要なエリアを1つ1つ段階的に磨き上げる作業が始まった。
対抗戦での再戦は夏以上の失点で敗れたが、戦える選手層がようやく整いつつある段階だった。この試合で不動の指令塔と位置付けられたSO本橋尭也(2年=京都成章)が、ぶっつけ本番ながら怪我から復帰。他のメンバーもまだ入れ替わりを繰り返しながらシーズンを進めていた。この時の両校の先発メンバーを大学選手権決勝と比べても、早稲田が1人も変わっていないのに対して、帝京は半数以上の7人を入れ替えている。勝者がメンバーを替えずに、敗者が手を入れるのはセオリーでもあるが、ベスト布陣でシーズンを駆け抜けようとした早稲田に対して、シーズンを追う毎にチームを熟成させてきた帝京のチーム戦略が浮かび上がる。
そのメンバーを見ると、フィールディング、アタック能力のあるFB小村真也(4年=ハミルトンボーイズ高)、U20日本代表主将も務めたSO/CTB大町佳生(3年=長崎北陽台)ら秋の対戦で欠場、控えに回っていたメンバーが先発に復帰。夏秋と重圧を受けたスクラムも、「真っ新な状態でレフェリーにもみていただける」と控えだったPR梅田海星(4年=秋田工)、HO知念優来(4年=常翔学園)を先発に起用。決勝戦開始2分のファーストスクラムで、アングルを掛けて組んでくる早稲田からPKを奪い獲り、その後も何度も反則を犯させた。
早稲田・大田尾竜彦監督の「(帝京大は)小村君が入ったことで、チームがすごく安定したと思う。それにより森山君らが本来のポテンシャルを出して、足を止め切れなかった」、HO佐藤健次主将(4年=桐蔭学園)の「最初のスクラムで逆にペナルティーを取っていたら自分たちの試合に出来たと思うし、僕の責任かなと思う」というコメントに、誤算の悔しさが滲んだ。