10年勉強しても喋れない日本の英語教育 川島永嗣と「型破り」サッカースクールの挑戦
英語で学ぶサッカースクールではなく、サッカーで学ぶ英語スクール
こうした思いが募って14年に立ち上げたのが「グローバルアスリート英語サッカースクール」だ。田中氏も勉強嫌いで5分と椅子に座っていられず、スポーツなら3、4時間でもやっていられるスポーツ少年だった。大学時代にサマーキャンプで1週間、海外に滞在し、スポーツを通して現地の学生と一緒にスポーツすると英語は分からなくても、グラウンド内でコミュニケーションを取れるようになった。「英語しか喋れない環境なら子供たちはマスターするんじゃないか」と感じ、スポーツと英語学習を融合させることを考えた。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
「ここはサッカースクールだけど、プロのサッカー選手を作ること、第2の川島永嗣を輩出することが目的じゃない。川島永嗣のようなグローバルな日本人を作りたい、ということ。サッカーは頑張っても、ほとんどの人はプロ選手になれない。なったとしても、川島のような日本代表レベルになるのは0.00何%の世界。でも語学があれば、可能性は広がる。僕らがやっているのはスポーツをツールに英語を学ぶ。サッカーが目的じゃなく、スポーツを通して英語を学ぶ。英会話教室で学ぶようなことをやるということ」
英語で学ぶサッカースクールではなく、サッカーで学ぶ英語スクール。川島がアンバサダーを務めていることで誤解されることもあるが、スクールの本質は英語だ。「そこが一番の特徴」と田中氏は言い、川島とも理念は共通している。だから、サッカーだけをやりたい子供には保護者に理解してもらい、遠慮してもらうこともある。一方、川島はオフを利用し、年に1度、生徒との交流会に参加。子供たちにとって大きな刺激になる。スクールの理想となる川島のグローバル性について、田中氏はこう話す。
「僕がマネジメントしてきた選手に共通するのはグラウンドから離れた時の社会性。スポーツ以外であっても、しっかりと社会人として会話をすることができる。グラウンド内はもちろん、それ以外の場所の質が圧倒的に違う。川島は特にそこがずば抜けている。出会った22歳の頃からそうだったけど、どんどん成熟されてきている。だから、この場所では彼のように、人間性の人間を増やしたい。社会性やインテリジェンスがあり、語学力もあってグローバルに活躍できる日本人に」
では、実際にどんな指導が行われているのか。生徒は3歳~年少、年中~年長、小学生の3クラスに分かれ、週1回、各60分の授業が行われる。コーチは全員、英語が話せるサッカー経験者。サッカースクールでは珍しく、正社員採用している。その代わり、スクールの営業活動など、コーチ自ら主体となって動き、責任を与えることで指導の質も上がっていく。コーチスタッフのクオリティは絶対の自信を持ち、ただのサッカーコーチより英語教育や幼児教育などの教育に携わりたいというスタッフが集まっている。何よりも肝心なのは、英語の指導。技術指導ではなく、コミュニケーションがメインとなる。田中氏が狙いを明かす。
「観光旅行で必要になるものの大抵は“要求”。マクドナルドでハンバーガーを注文したかったら『Can I have a hamburger please?』と言う。子供たちがサッカーをやるのも一緒。ボールが欲しいとか、GKをやりたいとか。『Can I have a ball please?』『I wanna be goalkeeper』みたいな感じ。これを『ボール』を『ハンバーガー』に変えればいい。そういう日常的に街で使えるものをグラウンドの中で教えていく。コーチも全部、英語。行動を指示されるので言われたことに反応しないといけない」
例えば、コーチから「Go to the right!」「Get your soccerball!」と言われたら、それに適切な行動を取らないとレッスンは進まない。できたら「Goodjob!」と褒められ、自分の行動が正しかったと理解できる。リアクションを求められることが少ない、学校の英語授業とは異なる。しかも、スポンジのように吸収する子供だからこそ、指導の価値は高い。コーチたち自身も子供の成長に驚きを与えられることの連続という。