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100回目のラグビー早明戦で浮かんだ「もしも」 敗軍の将の言葉に感じた歴史と矜持「3点差でPKなら…」

指揮官が100回目の早明戦を前に選手たちに語っていた重み

 話をゲームに戻すと、すでに1位扱いでの選手権がほぼ断たれた明治による猛攻を記者席で観ながら、先の質問が頭に浮かんできた。人間というのは「もしも」で生きているような側面もある生き物だ。これは取材者の基本的な思考パターンでもある。

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 一般論で考えれば、PGによる3点も悪くはない。トライを奪うよりも確率は高く、100試合目という記念すべき試合なら尚更だ。引き分ければ、未来永劫残ることになる100回目のゲームで「敗者」という屈辱を回避することが出来る。そして、今季の戦績を見れば、「よくぞ引き分けた」という評価も貰えるほどに、前評判はここまで6戦全勝の早稲田に傾いていた。だが、指揮官は同点PG狙いという選択肢に、首を縦に振る気は毛頭なかったのだ。

「その選択肢は誰もなかったと思います。勝たなきゃいけないというのはね、皆あるんで。まぁ、またもうすこしアップして、戻ってきます」

 今季の大学選手権は、準決勝が早明戦と同じ国立競技場。決勝が隣接する秩父宮ラグビー場での開催だ。同時に、早明戦の結果で確定した組合せ上でも早稲田とのリベンジマッチは決勝と決まっている。神鳥監督の最後の言葉は、決勝まで勝ち上がる強い意志と自信に満ちていた。

 一方で、指揮官はこの100回を数える記念すべき試合を前にして、選手たちにはその重み、価値をしっかりと伝えてきた。

「ずっとこの後も歴史に名前が残っていくんだ。その時に勝っている側でいたいのか、負ける側にいたいのか。すごく大事なことだし、これだけの歴史がある中で、これは明治にとって大事な事なので、恥ずかしくない試合をしようとは話しました」

 試合へ向けた1週間の冒頭で選手にこんな話をしたが、試合が近づいた段階では「お前たちの早明戦だ。お前たちなりの早明戦を楽しんでくれ」と、敢えて週の前半後半でマインドセットに緩急の変化を持たせて、選手の気持ちを解きほぐしながら戦闘モードに変えていったという。感情論では大正解ではあるが、それだけではない。この日のゲーム内容をみても、監督の判断、考え方は間違いではなかった。

 1つの理由は前半18分、28分、そして先に触れた38分のトライにある。往年の明治といえば「重戦車」と呼ばれた強力FWが伝統だった。全国の強豪高校から力自慢の選手が八幡山に集まっていた。それが、ここ数シーズンのチームを見ると、同じ全国区とはいえ、並み居るBKが揃うチームに変貌してきた。その一方で、FWに黄金時代ほどの破壊力には至っていない。どのチームのFWの大型化、パワーアップに余念がないからだ。だが、この日の明治は上記3つのトライを、ラインアウトからモールを押し込んで奪い獲っている。もし敵陣でPKになれば、フィフティーンの頭の中には再びラインアウトからのパワーゲームでトライを毟り取る自信はあっただろう。

 2つ目の理由は、終盤戦のやり合いの中で、明治FWが重圧をかけ、試合中に鋭いステップやランを何度もみせたCTB秋濱悠太(4年、桐蔭学園)らが有効なボールキャリーを見せていた。攻守の我慢比べのような展開から、どこかで防御を崩す感触は明治フィフティーンにはあったはずだ。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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