“超速”第2次エディージャパン1年目の検証 「世界トップ4と差が…」4勝7敗、4つの苦戦の理由と強化戦略の考察
試合を見ていて挙げられる4つの苦戦の理由と背景にある課題
最終戦では、イングランドの出足の速いハイプレッシャーディフェンスを意識して、相手の防御ラインの裏側にショートパントを蹴る戦術を用意したが、逆にカウンターで攻め込まれるシーンも目立った。梶村は「相手の裏のスペースを取りたいというコーチの意図は選手に降りてきていました。でもここまではコンテストキックを蹴らない方針だったので、予定したほど上手くプレーできなかった。逆にイングランドのアウトサイドにはスペースはあるなとは感じていたので、もっと早い段階で反映出来れば良かった。ゲームプランはどの試合も変更は無くて同じような展開が続いてきたという感覚なので、もっと修正して臨めたのにという感じはしました」と指摘している。チーム内での選手―コーチ間のコミュニケーションや、ゲームプランの熟成などが不十分だったことは認めざるを得ないだろう。
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梶村の指摘も含めて、シーズンスタートから勝てない要因は大きく変わりはない。過去の代表戦ごとのコラムでも触れてきたことの繰り返しになるが、ゲームを見ると下記のような苦戦の理由が挙げられる。
○チャンス時を中心とした攻め急ぎなどプレー精度の低さ
○組織としての連動性の低さ
○試合展開を読む能力の不足
○フィジカリティー不足
イングランド戦でも、これらの項目は露わになっている。精度の低さを見ると、開始5分のキックカウンターからの速い展開で攻撃の勢いを作ったにも関わらず、3次フェーズでのパスの乱れでチャンスに結び付けられなかった。直後の中盤左展開から数的優位な状況に持ち込んだが、イージーなキックでボールを相手に渡してしまっている。ここでは、キックを選んだ選手の判断も然りだが、周囲からパスで攻める指示があったのかも検証する必要がある。ゲーム展開の読みと、組織としての連動性が問われるだろう。
防御をみると、前半9分にイングランドが見せた右展開からの初トライは、日本の防御ラインを崩した相手BKにNo8ベン・アールが好判断のサポートランでマークしたものだったが、防御する日本の選手たちはボールばかりを追ってしまい、組織的としてサポート選手をマークするようなポジショニングが十分には出来ていなかった。この状況から読み取れるのも、個々の選手の状況を読む判断力の不十分さと、組織として、このような状況でどう動くのか、どの位置の選手が何をケアして備えるのかという事前段階のインプット不足だ。
フィジカルに関しては、エディーがブリーフィングで「この12か月のラグビーを見ると、競技性が大きく変化していると思える。ヨーロッパのラグビーでは、ブレークダウンでの激しさ、空中戦の激しさが重要で、我々には今後の課題になる」と指摘したように、接点での個々の強さももちろんだが、イングランドのようにフィジカルで優位なチームですら、ボール保持者を孤立させず、タックルを受けた瞬間に2人目、3人目がラックを形成する素早さも入念に準備しているのが、このゲームで何度も見られた。
そして、上記4項目の背景にある課題も明白だろう。
○新しいコンセプト(超速)の熟成不足
○若手選手、および選手の頻繁な入れ替わりによる経験値不足
○ゲームをコントロールするリーダーの不足
すべて「経験値」という言葉に集約できるかも知れないが、世界トップ5クラスの強豪との戦いが続いた中で、相手選手と戦況を読む判断力に差が歴然だったのは認めざるを得ない。ゲームを広い視野や自身の経験値を生かして見渡し、ボールを持っていない選手がどうポジショニングを取るべきか、次の展開にどう備えるべきかをチーム全員に共有させるような判断力やリーダーシップが不十分だったことは明らかだ。
今季の代表戦を取材する度に頭に浮かぶ言葉がある。「時間」だ。多くの方が認識しているように、チームがトップ10クラスの強豪と互角ないしそれ以上のゲームをするためには、やはり選手のフィジカル、経験値を上げ、チームプランを一定の精度で遂行するための準備時間が必要だ。エディーは「これからの3年間でチームの能力を積み上げていく自信はある」と2027年W杯までの強化に自信を示す一方で、「(上位チームに)勝つのがいつになるのかと聞かれれば、1年かかるのか2年なのかW杯までかは、世界のどんな指導者でも約束は出来ない」と先行きの困難さも滲ませる。