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脆すぎる防御…10トライ喫した新体制ワースト「19-64」の完敗 ラグビー日本が世界一3度のNZから得た学び

全10トライの戦況、時間帯を検証してみると…

 ここまでも触れてきたように、オールブラックスのプレーから学ぶことが重要だ。その一端は、この試合でどのような戦況、時間帯に勝者がスコアをしているかからも読み取ることが出来る。NZ代表の挙げたトライは下記のような状況から生まれている。

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【前半】
(1)12分 日本の先制トライ後、日本陣22mライン内でプレーし続けてマーク
(2)16分 12分の初トライから4分後
(3)22分 日本のトライ取り消し直後のスクラムから(1次攻撃)
(4)25分 22分のトライから3分後にボールを奪い1次攻撃から
(5)31分 PKから3次攻撃
(6)34分 31分のトライから3分後の2次攻撃
(7)40分 前半終了直前

【後半】
(8) 4分 後半開始直後
(9)37分 後半終了3分前
(10)41分 後半終了直前、37分のトライから4分後

 全10トライの中で、日本のスコア直後のトライが1回、自分たちのスコア直後の連続トライが4回、そして前後半のスタート直後、終了直前が4回(後半37、41分を含む)となっているのだが、ここからNZラグビーの強さの真髄が浮かび上がる。

 以前、オールブラックスが日本代表と対戦するのを前に、現在埼玉パナソニックワイルドナイツを率いるロビー・ディーンズ監督に、この常勝軍団がどんなことを考えながらゲームをしているのかを聞いたことがあった。NZの名門クルセイダーズを5度のスーパーラグビー優勝に導いた名将はこんな話をしてくれた。

「オールブラックスには、試合の中で集中力を高めてスコアを奪おうとしてくる時間帯がある。それは相手と自分たちがスコアした直後、そして前後半最初と最後の時間帯だ。この状況で得点をすることが、相手が最も心理的にダメージを負うからだ」

 それは戦略というよりも、彼らがハイレベルの勝負を続ける中で、経験上身に着けた勝負勘のようなものかも知れない。このような状況で例えばトライ(5点)をマークすれば、相手には自分たちが欲しい得点を逆に奪われたような心理状態に陥る。あくまでも感覚的なものだが、1つのパンチが相手に2倍のダメージを与えるような心理的な効果を狙っている。今回の対戦でも、NZはディーンズHCが指摘したような時間帯に集中力を高め、スコアをしているのだ。

 日本代表も、開始直後(前半5分)と相手のスコアから3分後にトライをしている。だが、敵陣22mラインを11度突破して、その内10回トライをマークしているNZに対して、日本の突破6回で3トライでは、相手に心理的なプレッシャーは十分には掛けられない。12-24とまだ追い上げられるビハインドだった前半30分前後に、日本は敵陣10-22mライン間で8次攻撃をみせたが、ほぼゲインラインを越えることなく止められ、最後は密集でのNZのジャッカルに反則を犯して、相手にプレッシャーを掛けきれなかった。

 強豪国と伍して戦い、勝っていくためには、NZのように、いかに心理的に優位に立てるような状況を作り出し、スコアを奪えるかも重要な要素になる。日本代表のNZ戦先発15人の平均キャップは16.9、平均年齢27.7歳だった。そんな若い選手たちが、2027年までにどこまでゲームの流れを読み取り、勝負どころで集中力を高めてしっかりとスコアを獲り切れる組織に進化出来るかが、勝てるチームへと脱皮できるかの鍵を握る。

 そして、このような経験値を上げていくためにはNZ同様に「学び」を得られる強豪国に、より多く胸を借りることが出来るかが重要だが、1年間で組めるテストマッチ数には限界がある。今回のNZ戦や、エディー体制初陣となった6月のイングランド戦も、厳密には「テストウインドウ(代表戦月間)」という優先的に代表戦を行える期間のギリギリ前の日程で組んでいるのだが、そんな“裏ワザ”を使っても、強豪国とは年間8試合組めれば上出来という状況だ。統括団体のワールドラグビーが各国のマッチメークを管理する傾向を強める中では、極端な試合増加は難しい。繰り返しになるが、代表セカンドチーム等を利用した代表戦以外の試合を組んでいくような工夫をしなければ、2027年までに経験値を効果的に増やしていくことは容易ではないだろう。

 ゲームスタッツからは、日本の敗戦をよく物語る数値も浮かび上がる。スコアをした場面での攻撃回数(フェーズ回数)を見てみると、攻撃の起点から何次攻撃でトライに至ったのかの平均数値をみると下記のようになる。

○日本代表 3.0次
○NZ代表 1.7次

 両チームとも3次攻撃以内でトライをしていることにはなるが、やはり差は明白だ。日本代表も前半の2トライは2次、3次と短いフェーズで決めているが、オールブラックスは、起点からそのまま奪った5トライも含めて最多が3次という短いフェーズでトライをしている。個人技、パワーで簡単に突破される状況も多かったことも影響しているが、決定力、遂行力ではまだ実力差は明確と考えていいだろう。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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