井上尚弥、5階級制覇を視野に入れた62.7kg過去最重量 その地盤は「ゴム人間の孫悟空」の心身
井上が練習中に“対戦”要求「やりましょうよ」
6月末、帝拳ジムの粟生隆寛トレーナーは大橋ジムにいた。愛弟子の出稽古で訪問中。突然、こんな声が飛んできた。
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「粟生さん、やりましょうよ。ちょっと入ってきてくださいよ」
声の主はモンスター。対面シャドーを求められた。同じボクサーとして痺れる誘い。グラブも着けず、向かい合ったまま互いにパンチを打つだけだったが、元世界2階級制覇王者の粟生氏は2ラウンド、計6分で“違い”を感じ取った。
「下半身がバネじゃなくてゴム。もの凄く上質なゴムです。バネは“ガシャン”と押して、1度離すと終わりじゃないですか。ゴムは手を離しても、バウンドが常に続いている感じ。優秀なゴムです。ふっとい、強い、もの凄く上質なゴムです」
小学1年でボクシングを始め、アマチュア選手だった父・真吾トレーナーの指導を受けた。言われ続けたのは基礎、基礎、基礎。パンチの軌道、ガードの位置、各関節の角度まで細かく叩き込まれた。基礎の徹底は今もなお大切にしている。
つま先でビョンビョンと飛び跳ねるため、練習の撮影ではレンズで追うのが難しい。粟生トレーナーは「とにかく足の使い方が超一級品。膝から下の使い方が特筆しています。それ(ゴムの下半身)でスピード、爆発力も違う」と惚れ惚れする。
「真吾さんにも聞いたんですよ。(ゴムのような動きを)教えているんですか?って。『基礎は教えているけど、自分で考えてやっている』と仰っていました。持って生まれたものと身につけたものがあるんでしょうね」
なぜ、粟生氏は対面シャドーに誘われたのか。「孫悟空です。強さを求める人はみんな孫悟空なんですよ」。つえーヤツとは戦ってみたい。そんな気概だったと推測する。「久しぶりにヒリヒリする6分間でした」。引退から4年経つ元世界王者の心を揺さぶる“対戦”だった。