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日本レスリングに「もう金メダルは無理」 ソ連崩壊で強豪分散…かつての「普通」を覆したパリ五輪

潮目が変わった2012年ロンドン大会

 潮目が変わったのは12年ロンドン大会。現代表コーチの米満達弘が男子では24年ぶりに金メダルを獲得した。「男子でも勝てる」という空気が流れた。続く16年リオデジャネイロ大会ではフリーの樋口黎とグレコの太田忍がそろって決勝に進出。そして21年東京大会では乙黒拓斗が2大会ぶりに金メダルを日本男子にもたらした。

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 今大会、男子の金メダリスト4人はいずれも日体大OBで、今も母校で練習を続ける。日体大の松本慎吾監督は「選手の意識は明らかに変わりました。目の前にメダリストがいる。勝てば自分もメダルが取れるんですから」と話した。

 松本監督自身もグレコ84キロ級のトップ選手で、五輪にも04年、08年と2大会に出場した。しかし、メダルを目指しながらも7位が最高。当時はまだ目標が漠然としていた。「東京で銅メダルを取った屋比久(翔平)が、同じ階級の日下のいい目標になった。一緒に練習するんだから、強くなりますよ」と松本監督は言った。

 伝統のハードな練習に、部内での高いレベルのライバル意識。東京で銀だった文田健一郎とリオ銀の樋口黎の同級生コンビは、どちらが金メダルを手にするかで争う。五輪出場が大目標の低迷期には考えられないこと。だから日体大が強くなり、他校をも刺激した。

「普通」は大きく変わった。日本のレスリングのステージが、1つ上がったと言ってもいい。20年前は「1つでもメダルが取れれば」だったが、今回は「金メダルを何個取るか」だった。「次が大変ですよ」と松本監督は話したが、選手の意識はより高くなっている。

 女子の重量級も同じだ。世界選手権5回優勝の浜口京子でさえ銅メダルが最高だった五輪の最重量級。世界のパワーに圧倒されて「日本人には無理」と言われてきた。それでも、鏡優翔は「常識」を信じず。高速タックルで頂点に立った。こちらも、ステージが上がる。

 吉田と伊調が戦列を離れた女子は「ステージ低下」も心配されたが、東京大会では4個の金メダルを獲得し、今回は初出場組が金4個を獲得。選手が代わっても成績は落ちなかった。日本の女子レスリングの「ベース」はしっかりと守られている。

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荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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