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「人間は罪とともに生きている」 金メダル→世界一と歩み、「人間の弱さ」を悟った人生とスポーツの哲学――ボクシング・村田諒太

THE ANSWERのインタビューに応じた村田氏【写真:浜田洋平】
THE ANSWERのインタビューに応じた村田氏【写真:浜田洋平】

ボクシングは「人間」を知るための旅だった

 続けたのは面白かったから。強さを見せることで仲間ができていく。子どもの頃って、それが仲間を得るためのツールなわけです。強さを見せたい=仲間が欲しいという気持ち。仲間ができ、自分の技術が上がっていく。プロテストを受ける選手とスパーリングをして、中学生の僕の方が良かった。自己成長の喜びを感じられた。途中から強さを見せたいというより、ボクシング自体が楽しくなっていきました。

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 なぜ、仲間が欲しかったのか。人間の本能だと思います。人間は集団をつくることによって生き延びてきた。1対1なら熊にも、犬にすらも勝てない。だから、人間はどうしても仲間が欲しくなる。数千年したらAIやロボットがもっと発達して、「仲間なんかいらん。個人で生きていけるわ」と変わるかもしれない。ただ、いまだにその遺伝子は僕らにインプットされていないですよね。

 ボクシングは紀元前の古代オリンピックから行われている。種として誰が強いのか、群れの中で誰が優秀なのか、誰とやったら自分たちが凄いと見せられるのか。みんな、それを考えるのでしょう。そういう根源的な欲求をわかりやすく満たしてくれるのだと思います。

 今の時代、発言やSNSでマウントを取りたがる人がいる。これも間違いなく根源的な欲求、競争意識があるのだと思います。

 スポーツで一つの目的を叶えるために協力し合う、そういう力を身につける場としてはいいと思います。ただ、何かを成し遂げることが人生の目的なのか。そもそも人生で何かを成し遂げる必要なんてあるのか。喜んで楽しんで日々を過ごせば、本当はそれだけで十分。僕の子どもにはどんな状況でも喜んで、楽しんで、毎日を過ごしてくれたらそれでいいと思います。

 スポーツは喜び、楽しむためのツールでしょう。スポーツだって、仕事だって、人生だって、それが重荷になってしまったらまた違ってくる。かといって、そのちょっとした負荷がある方が、達成できた時の楽しみが増えるのも事実。ドラマのようにメリハリがつく。でも、そんなもん。スポーツなんて。

 ボクシングをやっていない人からすると、「なぜ、やるのか」と思う人もいます。危ないし、怖いし、死の危険性もある。不良少年・諒太くんからしたら、単純にカッコよく映っただけでしょうね。初めはその世界にリアルがあると勘違いしたのでしょう。五輪で金メダルを獲り、プロでも世界王者になりました。

 でも、どこまで行ってもリアルなんてなかった。所詮は他人がつくる価値。

 じゃあ、やらなかったらよかったのかというと、そんなことはありません。もちろん、やっていてよかったと思います。子どももいるし、食うにも困らないだけ稼ぐことができました。友だちもでき、いろんな経験もさせてもらえた。

 だから、スポーツ自体が目的ではない。スポーツを通じて何かを得ることが目的であって、スポーツなんていうのはただのツール。人生を彩るため、何かを得るためのツールとしての選択肢の一つにスポーツがあってもいい。それ以上でも以下でもない。

 ボクシングを通じて自分が強いと証明したかったし、自分自身にも強さを証明したかった。でも、最終的には自分がどれだけ弱いのか、それをただただ垣間見た。人を殴ること、困難に耐える心が強くなったかもしれないけど、そういうものを求めれば求めるほど、人間として自分がいかに弱いかを知った。

 そこに強さはない。今になると、ボクシングは「人間」を知るための旅だったのかなと思います。

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