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「陸上競技と受験は似ている」 敗因はすべて自分、特性を知り“勝てる戦場”を探す陸上で人が育つこと――陸上・為末大

スポーツは「できない」を疑う習慣が育まれるという【写真:荒川祐史】
スポーツは「できない」を疑う習慣が育まれるという【写真:荒川祐史】

スポーツそのものが育てるものは「できないこと」を疑う習慣

 では、もう一歩下がって、そもそもスポーツをすると、どんな良いことがあるのか。

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 まず、人間は動物であり、動物は身体活動に基づいています。地球を遠くから見ると、生物は基本的に捕食する・される関係にあり、基本的にはそちらに最適化されていく。座りながら捕食したり・されたりはない。我々も基本的な身体があり、その上に思考が乗っているわけですが、身体活動は我々の動物的なところを刺激する。

 スポーツはさらに睡眠や栄養が入ってくるので、健康で豊かな人生を歩むOS(基本ソフトウェア)が乗りやすい。人生の終盤はだんだんとスポーツの基礎のようなことをお医者さんが教え始めるんです。それが人生の早い段階で体験として残るのも便利です。

 そんな前提がありながら、人前に晒されることが大きい。公衆の面前で負ける、どうしようもないものを突き付けられる。

 それは苦しさであり、子どもには少し酷ですが。社会はあまりダメージを与えないように、そっとベールで隠すところがある。スポーツは「あなたの負けです」「前のレースより、あなたは遅かったです」とむき出しにされ、その繰り返しによって晒されることへの耐性ができます。

 そうこうしていると、それは結果に過ぎないんだと、何かスカッとする部分がある。本当は負けることは大したことじゃないのに、すごい大きなことと人は思い込みやすい。勝ち負けは運にも左右される。もちろん負けた瞬間は悔しいですが、スポーツをしていると、勝負はそういうものだと、直感的にわかる。

 そして、何よりも大抵は限界と思っているものの先に限界があると知れること。

 人による部分はありますが、「ここまでしか無理」と思っていたものが続けてみると、想定より先に行けてしまう。一度その体験をすると「できないこと」に疑いを持つ。「本当にできないんだっけ?」「もうちょっとやってみたら、できちゃうかも」と。「ここまでかな」と思っているものが頑張ってみたら、それを超えられた。それをどんどん繰り返していくうちにオリンピックに辿り着いたアスリートも多いのではないか。

 引退した後も最初はできないと思ったものも「いや、待てよ。あの時もできないと思ったけど、できたことがあったよな」と記憶を引っ張りだせる。最初にやってうまくいかないことに対して、粘り強く疑えるようになる。

 スポーツ教育のなかでも、ぜひこのように励ましてあげるように変わっていってほしい。「お前はできないと思ったみたいだけど、できるかもしれないよ」と大人がちゃんと気づかせてあげる。そんな風にしていけば、スポーツも社会にもっと広がっていくと思います。

■為末 大 / Dai Tamesue

 元陸上選手、Deportare Partners代表。1978年、広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2024年8月現在)。現在はスポーツ事業を行うほか、アスリートとしての学びをまとめた近著『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』を通じて、人間の熟達について探求する。その他、主な著作は『Winning Alone』『諦める力』など。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)


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