「マラソンは人生には例えられない、なぜなら…」 嫌なら走るのを止めればいいスポーツで人が育つこと――マラソン・谷口浩美
現役時はまさに“命懸け”「42.195キロの語呂合わせは…」
よく聞かれる「マラソンの魅力」について、谷口氏は「自分の可能性をどれぐらい出せるかということに尽きます」と答えているという。一方で、安易な取り組み方はしていなかった。「マラソンの距離の42.195キロを語呂合わせすると“死に行く覚悟”となるんです。そういう覚悟で取り組みなさいっていう教えを受けて、それに合わせた行動を取っていましたね」。まさに“命懸け”の競技生活だった。
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こうした考え方になった背景には、当時はマラソンのレースそのものの数が現在より圧倒的に少なかったことも影響している。「出られるレースが限られていて“スタートしたからには、ゴールしないともったいない”みたいな感じはありました。でも今はレースも多く、途中でダメだと思えばやめて(棄権して)しまって、次に切り替えるということができる。そういう時代の差はあると思います」と今のランナーたちとの取り組み方や目標設定の差を指摘する。
近年、男子のトップ選手は世界記録も2時間を切る寸前のところまで来ており、レベルアップが著しい。谷口氏に言わせれば「技術の進化ですよね。今の速い選手たちは、ある意味“バネ下駄”で走っているようなものだから」と厚底シューズに代表される用具の進化が大きいという。
「逆に言うと、あれに見合う肉体であるかどうかが、今、速い選手になれるか、なれないかです。今の選手たちは厚底シューズに対応できる体にどんどん変わってきていますけど、あのシューズを私たちが履いたらすぐ体に異変が起きていましたよ。今は技術の進歩とともに、その技術に似合う体に選手たちが変化していっているんじゃないかなと思いますね」
栄養学の研究が進み、近代マラソンで“勝てる”体づくりがクローズアップされる昨今、谷口氏はそこにある“落とし穴”にも警鐘を鳴らす。
「みんなが栄養学で計算されたものを食べれば強くなるかっていうと、そうじゃない。それぞれの体があり、自分の工夫や変化というのをどう捉えるかで変わっていくことに気づく必要があるんです。研究が進むのはそれはいいことですけど、何がいいかを選択していく部分がまだ欠けていると思うんですね。どんなスポーツも“モノマネ”から強くなると思うんですよ。有名な選手を見て、その選手がどんなトレーニングしているかを知るのは大事ですけど、そこにいくプロセスはそれぞれ違うことを理解したうえで、自分を作っていくことが一番大事だと思います」