那須川天心が置き去りにした実力懐疑論 外野の声は聞こえない、圧倒TKOを生んだ6か月の没頭
試合2週間前にぶつかった壁「逃げるのか、自分で越えていくのか」
激闘型のスパー相手。「毎日、安心できないスパー。毎日、成長を感じる。試合以上の経験ができている」。ガードの上からパンチをもらい、グラブの革が擦れて目の下に傷ができた。「顔で売っているので台無しですね」。笑った横顔には充実感。実戦で課題を知れることを喜んだ。そんなスパー数は100回を軽くオーバー。ラウンドごとに遠近を使い分け、引き出しを増やしていった。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
陣営の本田明彦会長は言う。「練習のために(芸能関係の)多くのオファーを断っています。練習が楽しくて仕方ないから。ボクシングの奥深さが面白くて仕方ないようです」。拳を振り、没頭した。
試合2週間前には壁にぶち当たった。イメージした動きができず、近~遠距離それぞれの技術を組み合わせられない。「なんでできないのかな」。迷いが生まれた。ただ、好きになったボクシングから逃げないと決めている。
「生きていて壁にぶち当たることは絶対にある。そこから逃げるのか、しっかりと突き詰めて自分で越えていくのか。それで人としての厚みの違いが出ると思う」
仲間の手を借り、疲労が溜まる難しい時期に繰り返した修正。「バシッとハマった」。試合に間に合わせた。ロドリゲスは昨年11月に元WBA世界スーパーフライ級王者でWBA世界バンタム級4位だったカリド・ヤファイ(英国)に初回KO勝ち。前戦は敗れているとはいえ、死角からの右フックは脅威だった。
「こっちは頭の位置を真っすぐにせず揺らしたり、ワンツーをしなかったり。自分の動きをして相手を動かす。相手に合わせない。自分が場を支配する。進化を見せられたと思う」
世界バンタム級王座はWBAに井上拓真、WBCに中谷潤人、IBFに西田凌佑、WBOに武居由樹が就き、日本人が独占中だ。那須川は同級でWBA7位、WBC12位、WBO10位。東洋太平洋は3位、WBOアジアパシフィックは1位につける。規定では日本、東洋太平洋など地域タイトルを獲らないと世界挑戦できない。
ボクサーの体づくりの真っ最中。「飛び級はしない」。まだ4戦目、契約体重は仕方ない。ネット上の誰かが言う通り、世界王座まで成長が必要なのは事実。それは本人が最も理解している。
「型が完成したと思うと、進化が止まってしまう。皆さんも何かしら闘っていると思うんですよ。僕はボクシングという場所で闘っているだけ。その中で表に立って評価されるのは一瞬しかない。だけど、見られないところで日々頑張って、誰でもできることを誰にもできないところまでやる。それが本当に大事だと思います」
努力も、成長もわかる人にはわかる。無用な外野の声を超速で置き去りにし、神童は高みに上っていく。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)