日本で8番目に速く走れる研修医 文武両道を譲らない、陸上800m広田有紀の「1mmでも進める努力」
選択に迷う次世代へ「二兎を追った分だけ成果は必ず表れる」
日本選手権まで10日。ようやく走り始めたが、500メートルが限度。「もう満身創痍。残り300メートルが持つかわからない。でも、自分をひたすら信じた。何秒でも出るっしょ!って」。間に合ったスタートライン。病院関係者も集まった客席から人一倍の声援が聞こえてきた。
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「めっちゃ元気が出た。絶対に決勝に行きたかった」
残り400メートルで5番手、300メートルで4番手。「がむしゃらについていった」。不思議と踏ん張りが利いた左足。ラスト50メートルで3着に入った。4月から7秒も縮める2分04秒43。後続の組の結果を待ちながら受けた取材中、決勝進出の吉報が舞い込んだ。「や、やった! おおー、おおおっ!」。拳を握り、喜びを抑えきれない。あと0秒36遅ければ予選敗退だった。
陸上と勉強。どちらもやることで学んだものは「時間の効率化」と即答する。
「あとは1ミリでも進むように努力すること。確実に進むことをしていけば、必ず結果は出てくる。それを学びました。1ミリを追い求めたことが、2つをやって出した結果だと思います」
トラックを2周する800メートル。「広田さん!」。どこを走っても声援が聞こえた。「涙が出そうになりました」。単に地元だからじゃない。日頃のひたむきな努力を知っているから、仲間が声を枯らした。「マジでよかったです。ほんと、バイクをこぐ姿しか見せていなかったから(笑)」
壁を乗り越えた今、伝えられることがある。道に迷う次世代の背中を押してくれた。
「二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますけど、二兎を追った分だけ何か成果は必ず表れるはず。二兎を追うことで諦めそうになる瞬間ってたくさん訪れてしまう。だけど、1ミリでも進めていれば、私みたいに2分11秒から2分4秒までの飛躍も夢ではない。『そういう人たちもいるよ』とわかった上で二兎を追ってほしい」
8人による決勝は8位。「悔しい。2分間が歯がゆかった」と負けず嫌いの一面が出た。
7月から勤務先の病院が変わった。「まだ陸上も続けるとは言えない。できるかわからないので言葉にしないです。まずはやることをやらないと」。再び走り出すのは、研修医として信頼を勝ち取ってからだと決めている。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)