64試合連続完投した伝説の鉄腕 球数制限など現代の投手分業制に疑問「完投自体は肉体を酷使しない」
高校野球で進む球数制限に「一律に制限してしまうのはどうなのか」
「連投が続いて疲れを感じることはあったか」と尋ねると、小野は首を横に振った。「最初から一人で投げると覚悟を決め、準備をすれば、疲れを感じない体はつくれる。試合中に疲れると試合が壊れるし、自分も楽しくない。疲れないように、毎日走って鍛えていました」。近年の野球界では「走り込み不要論」が出ることもあるが、小野は一貫して走り込みの重要性を唱える。
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また高校野球で球数制限の導入が進んでいることもあり、現代野球では先発完投よりも継投策が主流になっている。小野は「選手を守る目的でしょうし、連投はきついかもしれない」とした上で、「一律に制限してしまうのはどうなのか」と疑問を呈する。
「完投自体は肉体を酷使するものではないし、野球は初回から9回まで150キロ、160キロの球を投げないと勝てない競技ではない。粘り強く、低めに丹念に投げれば抑えられるように、野球の神様がつくってくれている。『投げたい』という意思を持ってそのための練習を積んできたピッチャーには投げさせてあげたいし、(制限することが)選手の成長を抑えてしまう可能性もある」
様々な情報や考えがあふれる現代において、確固たる答えを導き出すのは困難だ。ただ、鉄腕の言葉には説得力がある。
大学卒業後に地元で就職してからは職場の軟式野球チームでプレーし、20歳代後半頃には発足したばかりの青葉クラブに加入した。小野の日常の中には野球があり続けている。現在は全体練習に参加するほか、チームメイトでもある息子とキャッチボールをしたり、以前と変わらず走り込みをしたりして体を鍛えている。今でも土日のいずれかは、自宅周辺を約10キロ走るという。
「よく冗談で、『年金をもらうようになって社会人を引退しても、社会人野球は続けられるのかな』と話しています。野球をしていて楽しいと思えるうちは続けたいです」
かつてのように完投する体をつくるのは難しいかもしれない。それでも、チームのために覚悟を決めて腕を振る姿勢と、登板に向けた準備をする日常は、ユニホームを脱ぐ日まで変わらない。
(川浪 康太郎 / Kotaro Kawanami)