賛否ある有料スポーツ視聴の意義と未来 カタールW杯とWBCは「パラダイムシフトくらいの変化」
スポーツ視聴で大きかったカタールW杯とWBC「パラダイムシフトくらいの変化」
――スポーツの視聴体験で言えば、2022年11~12月にカタールW杯があり、2023年には野球のWBCがあり、日本がひっくり返るような盛り上がりを見せました。短期間で非常に稀な出来事だったと思いますが、この2つのイベントが与えた影響はどうお考えでしょうか?
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
藤田「パラダイムシフトくらいの変化が僕は起きたと思います。ネットでスポーツコンテンツを見ることを1度体験すると、それが当たり前のようになって、場所を選ばず、それこそ時間も調整して見るというスポーツ視聴体験を知った人が凄く増え、これからスポーツを見る時にネットでの視聴が選択肢に入るようになりました。カタールW杯とWBCがぐっとスポーツ視聴の可能性を広げたなと思いますね」
笹本「僕も文化的な話と技術的な話で思うところはあります。技術的な話では、インターネットの黎明期からすると、考えられない視聴体験が今あるわけです。特にスポーツのようにリアルタイムで見るものが最も熱量が高い。それを技術で叶えてきたのは、黎明期からインターネットに携わっている僕らとしては感慨深いですが、それもさらに進化していく。文化的な面では世界の大会で、日本の選手・チームがこれだけ戦い、活躍できると世界でも評価されるようになったことが、スポーツ界の可能性を劇的に拓いたと思います。なので、その火を消さないようにより多くの方に接していただいて、DAZNの役割としては世界も含めて広げていけたらなと思います」
――大谷翔平投手というスーパースターの存在が出てきたことはどう捉えていますか?
藤田「彼の場合はスポーツのライトファン層がどうこうじゃなく、もう“国民の大谷翔平”なので例外だと思います。ABEMAでもMLBを生中継していますが、大谷が出ると出ないで話が違ってきます」
笹本「言い方はちょっと不適切かもしれないですが、宇宙人みたいな方じゃないですか。漫画みたいなことをやってしまっている。サッカーで言うとキャプテン翼がリアルに出てきてしまった存在が大谷翔平さんだと思うので、日本を超えた存在。万人受けはなかなかないはずが、リアルに存在する方なので、不思議な感覚ですよね」
――コンテンツとしてのスポーツについてもお聞きします。音楽、映画、芸術など、世の中にはあらゆるコンテンツがあふれていますが、スポーツにしかない価値はどんなところに感じていますか?
藤田「スポーツには筋書きがないドラマがある点ですね。みんなで体験できる同時性もあり、物凄い瞬間に立ち会えることもある。もちろん(期待を)外すこともありますが、それも筋書きがないからこその魅力ですね」
――藤田さんは小さい頃からスポーツを見てきて、震え上がるほど興奮した時はありますか?
藤田「それはもうゼルビアがJ1昇格を決めた時ですね。思わず叫びました(笑)。長友が『ブラボー!』と言った気持ちがわかりました(笑)」
笹本「やはり、そのくらい筋書きがないから粘着性が高まるでしょうし、その選手の背景にあるストーリーや、チームを応援している方々の想いが熱量として伝わってくる。ドラマとは異なる体験なんだと思うんですよね。物凄く人間臭いのがスポーツ。ドラマもそういう人間くささを出せるとは思いますが、脚本ありき。それが全くないのがスポーツなんです。どんなに技術が進化しても、それは代替できないものではないでしょうか。だから、スポーツの人間臭さに特別なものを感じますね」
――スポーツコンテンツの人気という面では今後をどう見通していますか?
藤田「笹本さんのお話で『ストーリー』という言葉が出てきましたが、それがあるとないとでは面白さが変わると感じますね。毎年、僕は元日の社会人駅伝(ニューイヤー駅伝)をハラハラしながら見ているんですが、親しくしているGMOインターネットの熊谷社長が、あの大会でどうしても勝ちたくて、凄い熱の入れようで。自分でアフリカに行って、選手をスカウトして、飛行機に乗せて帰ってくるくらい。それだけ懸けているけど、なかなか勝てない。でも、その過程を知っているだけで、面白さが全然違う。ABEMAのニュース、バラエティー、ドラマも含めて、スポーツコンテンツが持つそのストーリーを伝えることでも、もっとスポーツの価値を高められそうだなと思います」