阪神の足を変えた男 異端の「走り指導のプロ」が36歳でもう一度“世界”に挑んだ理由
出場が“動ける指導者”として転機に…「マインドセットが壊れた瞬間」
「指導やアドバイスをする上で良くないと思うのが、精神指導に寄ってしまい『ちゃんとやれ』と上から言い、さらに最も良くないと思うのは『なんでできないんだ』と技術的な指導がないのに技術のことを言ってしまうことだと思います。その修正方法がなく、見たままの感想を言ってしまうことが問題だと思います。なぜできないかを技術と精神の両軸で支えるのが大事だと思っていて、自信が持てない子供や選手の特徴は普段、練習で何をやっているか理解できず、成果にもつながらないからではないかと思います。
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ロールプレイングゲームをやって、いつ経験値を手に入れたか、いつレベル上がったか数字で出なかったら、面白くないですよね。そうなると、子供は部活がつまらなくなりますし、指導者も変化のないただの毎日の指導になってしまいがちです。マスターズ挑戦は僕の指導レベルが上がることで幅も広がり、最先端の感覚に近づくための方法だと感じました。もちろん結果を出すためにやっていましたけど、最終的な最優先事項は自分の指導に生かすこと。だから、実際に出て良かったと思います」
今大会は“動ける指導者”としてのキャリアについても転機になる経験になったという。
「今回、朝原さんは10年のスランプあって11秒2、3で走ったり、武井さんが日々、毎日少しの時間でもトレーニングを続ける大切さと懸命に戦う姿を見せてくれたり、それに現地に行ったら、腰が曲がったおじいさん、おばあさんも真剣に本気で走っているんです。ウォーミングアップ場もアットホームな雰囲気じゃないんですよ。自分が現役時代に見てきた景色と全く一緒でした。今回、の出場者は5000人いて会場は4つに分かれ、大会も2週間以上やっている。自分が想像するよりも大きな規模感でした。
そういう世界を見られたのは凄く大きかったです。自分は現役時代、日の丸をつけられなかったので、こういう場所でも日本代表として走れたことは本当に嬉しかったです。武井さん、朝原さん、世界の人たちの背中を見て感銘を受けましたし、それはある意味、ここまでしかいけないんじゃないかというマインドセットが壊れた瞬間でした。憧れのコーチが頑張っているから僕もやろうと思われる存在になれたらと思います」
今なお走り、動く、異端の指導者は「走りでスポーツを変える」と信念を持ち、そのメソッドを還元していく。
(インタビュー後編は「ウエスタンリーグ新記録163盗塁を記録した阪神の指導と、その舞台裏」)
(THE ANSWER編集部)