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「由伸2世」と呼ばれた谷田成吾、最後のプロ挑戦の告白「今年ダメなら野球辞めます」

かつて神宮の杜を沸かせたアマチュア球界の逸材は、鈴虫の音色が響く吉野川の寂れた河川敷グラウンドでバットを振っていた。「なかなか、すごい場所ですよね。でも、いいところですよ」。そう言って、端正なマスクに笑みを浮かべた。谷田成吾、25歳。四国アイランドリーグ、徳島インディゴソックスに所属する外野手だ。

今年が最後のプロ挑戦と明かした谷田成吾【写真:編集部】
今年が最後のプロ挑戦と明かした谷田成吾【写真:編集部】

社会人退社、米挑戦、独立L入り…プロにこだわり“異端の道”を歩んだ25歳の今

 かつて神宮の杜を沸かせたアマチュア球界の逸材は、鈴虫の音色が響く吉野川の寂れた河川敷グラウンドでバットを振っていた。「なかなか、すごい場所ですよね。でも、いいところですよ」。そう言って、端正なマスクに笑みを浮かべた。谷田成吾、25歳。四国アイランドリーグ、徳島インディゴソックスに所属する外野手だ。

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「由伸2世」。こう表現した方が、ピンと来るファンは多いかもしれない。慶応高時代、通算76本塁打を放ち、慶大で同じ「KEIO」を胸に着け、左打ちの外野手だった巨人・高橋由伸(現監督)になぞらえ、そんな異名がつけられた。東京六大学リーグ通算15本塁打を放った慶大4年秋のドラフト会議で指名漏れを味わった後、社会人野球の名門・JX-ENEOSに進んでプロ入りを目指していたはず。昨年も指名はなかったが、なぜ、今、四国の地で汗を流しているのか。

高校、大学、社会人すべてで日本代表に選ばれた【写真:Getty Images】
高校、大学、社会人すべてで日本代表に選ばれた【写真:Getty Images】

 今年もドラフト目前。そんな話を聞きたくて、徳島に足を運ぶと、寸分の迷いもない口調で、こんなことを言ってきた。

「今年、ダメだったら、野球は辞めます」――。

 グラウンドの向こうの長閑な山々を見つめながら語った言葉は、優しげな表情とは裏腹に、揺るぎない決意が宿っていた。

 激動の1年間だった。慶大卒業後の16年にJX-ENEOS入社。指名解禁となる翌年のドラフトでプロ入りを目指し、雪辱を期していた。1年目から4番に座り、侍ジャパン社会人日本代表に選出。高校、大学に続く日の丸でも4番を託された。順風満帆に階段を上がり、迎えた2年目が転機になった。オープン戦で本塁打を量産し、「今年は行ける」と手応えを掴んで幕を開けたシーズン。よもやの3試合連続無安打スタートとなった。

 ほんの少し、狂った歯車。しかし、それは日を追うごとに大きくなり、状態を落とした。徐々に打順が下がり、ベンチを温め、代打にかける試合も珍しくなくなった。運命のドラフトイヤー。迫る勝負の時に反比例するように浮上のきっかけを掴めず、そのままシーズンを終えた。ドラフト指名はなし。シーズンを振り返り「これが自分の実力」と言い訳はせず、2018年の年始に心に決めた。「今年、ダメなら引退」と。

「僕の中で『プロ野球選手になる』ということが一番大きい目標にありました。25歳という年齢になる年。社会人で2年間やって声がかからず、どんどん可能性が狭まっていくことは理解していました。プロになれなかったら野球を辞めるということはずっと思っていたこと。野球が、自分の夢が終わるかもしれないという状況で1年間、もしダメだったとしても、どうやったらやり切ったと納得して終われるか。プロに行けるなら、育成でもいい。それだけを考えて可能性があることは、もう何でもやろうという気持ちになりました」

 谷田にとっては“プロになるための野球”。そのためなら、どんなことでもやる。JX-ENEOSに退社を告げたのは、それから2か月後の今年3月のことだった。

 理由は、あるオファーが舞い込んでいたこと。メジャーリーグのトライアウトだ。谷田の心意気を知った米球界関係者から話があった。社会人に身を置いたまま、挑戦はできない。「挑戦=退社」を意味する。不況の煽りを食らう社会人野球において、JX-ENEOSは数少ない正社員契約するチーム。プロになれなくても引退後は社業に専念し、安定した会社員生活を送ることができる。しかし、その権利を自ら手放すことになる。周囲は「社会人にいたままでもプロに挑戦できないわけじゃない」と反対だった。真剣に思ってくれる意見に感謝しながら、最後は「挑戦」を決断した。

「目の前にチャンスが転がっている以上、挑戦しない理由がなかった。そっちの方が可能性が上がると自分で思っているのに行かない理由があるなら、今後に対する目に見えない不安とか、ENEOSという会社に正社員で入っている重さとか、野球以外のことが大きい。プロに行けるなら育成でもいい。もちろん、拾ってくれたENEOSへの感謝もありますが、それは社会人にいると、難しい。すごく悩んだ上で、プロ野球選手になりたいと思っている以上、少しでも可能性が上がる方にどんなリスクを背負ってでも挑むべきじゃないかと。それが一番でした」

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