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スキー複合・渡部暁斗が許せなかった「行動に移せない自分」 環境問題に向き合うアスリートの意義

渡部は育児にも積極的に関わってきた【写真:松橋晶子】
渡部は育児にも積極的に関わってきた【写真:松橋晶子】

男性の育児参加についても意識が変化

 渡部が取り組む社会課題は環境問題のみならず、男性の育児参加についても自分の経験を発信している。

 妻は元フリースタイルスキー女子ハーフパイプ選手の由梨恵さん。2018年の平昌冬季オリンピックは夫婦で出場している。第一子となる男児が2020年11月に、第二子となる男児が2022年5月に誕生。妻と相談しながら、分担しながら育児に積極的に関わってきた。

 競技と育児をしっかり両立して結果を残していきたい――。これが渡部の新たなモチベーションになっている。

 シーズンが始まると海外を転戦するため、育児には参加できない。そのため日本にいるときは朝食づくりに始まって保育園への送迎、夕食づくりや寝かしつけなど、できる限りのことをやろうとしている。もちろん子どもたちと触れ合う時間も大切にする。トレーニングは子どもたちが保育園にいる時間にこなしてしまうのが基本だ。

「時間の使い方というかスケジューリングはもの凄くうまくなってきたかなと思っています。時間をうまく使えば効果的なトレーニングをしつつ、ちゃんと子どものケアもできる。そこで気づいたのはアスリートって結構時間には恵まれているなって。突き詰めていけば、もっとできるようなことがあるなって感じています。妻を支えながら積極的にやっていきたいですし、(育児をする男性に)何か聞かれたときに自分なりの解決策というものを持っておくようにはしておきたいですね」

 パパとして競技と育児を両立して結果を残していけば、男性の育児参加という社会課題においても風穴を開けることにつながっていく可能性もある。

 元々、キング・オブ・スキーと称されるノルディック複合は矛盾した競技とも言われる。肉体のつくり方一つにしても瞬発力が求められるジャンプとクロスカントリーでは違う。

 渡部は競技と人生を重ねて言う。

「仕事と家庭だってそうじゃないですか。どちらかを上げようとすると、どちらかが難しくなったりする。そのなかでみなさんそれぞれ良い塩梅のバランスを見つけようとしていこうとしますよね。そのバランスだって日々変わってくるじゃないですか。それと一緒です。仕事と家庭だけじゃなくて、人は矛盾を抱えるいろいろなことと向き合って生きている。人生の難しさがこの競技に集約されているなって、そこは強く感じますね」

 ミラノ・コルティナダンペッツォでの次回冬季オリンピックを含め、2025-26年シーズンを最後に競技生活から退く意向を示している。残り3シーズン、自分がやるべきことは明確に見えている。

「やはり勝者としてふさわしい選手像を追い求めていきつつ、その先に世界選手権とオリンピックの金メダルがつながっていればいいかなと思っています。成績としては自分が埋めていない2つのピースになるので、もし取れれば納得して終われることができるんじゃないですかね。そのために今を、その瞬間を大切にして日々を送っていきたいと思っています」

 社会課題と向き合うことでパフォーマンスも上がる。

 これからのアスリートが目指すべき姿を、渡部暁斗が先頭に立って体現していく。

(二宮 寿朗 / Toshio Ninomiya)

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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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