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「長距離×競歩」で狙う世界の頂点 東洋大監督夫妻、五輪メダリスト育成に生きる箱根駅伝の経験

教え子の1人である池田向希は2021年の東京五輪男子20キロ競歩で銀メダルを獲得した【写真:Getty Images】
教え子の1人である池田向希は2021年の東京五輪男子20キロ競歩で銀メダルを獲得した【写真:Getty Images】

走ることが禁止の競歩で「走る要素」を取り入れた練習を実施

 競歩の元選手であり高校の指導者だった妻の酒井瑞穂は、夫の松永に対するアプローチ方法を新鮮に捉えていた。

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「当時、オリンピックの20キロ競歩で入賞するのは日本勢にとって至難のレベルでした。その中で入賞を目標に掲げ、ラスト5キロのラップタイムを明確にし、そのタイムから逆算した練習を組んでいました。それを見て、長距離的な発想だなと感じたことを覚えています」

 練習内容も斬新だった。ざっくり言えば走ることが禁止されている競歩で「走る要素」を取り入れたものだった。酒井監督は「一部の指導者からは『それはないだろう』と笑われたこともありました。でも私自身は競歩の専門家でなかったので、目標達成のためにも思い切り試してみました。結果的にそれが形になったと思います」と回想しつつ、松永への指導は箱根駅伝における考え方がベースになっていたと説明する。

「第87回(2011年)に早稲田大学が箱根駅伝で初めて11時間の壁を破り(10時間59分51秒)、その翌年にうちが10時間51分(36秒)まで行き、総合優勝の基準が1キロ3分を切るペースとなりました。基準が変われば、求められる技術的な要素も大きく変える必要が出てくる。現在では1キロ2分55秒を切らないと、総合優勝に届かない時代となり、なおさら技術面での探求が必要です。競歩の指導の時も、そういう考え方で取り組んでいました」

 とはいえ、競歩はベントニー(地面に接地する足側の膝が曲がる)、ロスオブコンタクト(両足が同時に地面から離れる)など違反行為が設けられており、歩型(フォーム)に制約がある。それだけ繊細な指導が求められるが、酒井監督は違和感なく指導にあたることができたのだろうか。

 その疑問に、瑞穂が答えてくれた。

「夫は以前、競歩は芸術、という言い方をしたくらい、競歩のことが好きだと思います。動作分析をよくするので、どのような動きをしたら速く歩けるのかなど、私が大学で競技をやっている時から質問を受けていました」

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牧野 豊

1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「NBA新世紀」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。22年9月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。

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