箱根駅伝で19年連続シード獲得 東洋大監督を支える「監督補佐+競歩コーチ」の妻が貫く信念
大学陸上界では珍しい指導者夫婦がいる。箱根駅伝の常連校で通算4回の優勝を誇る東洋大学陸上競技部を2009年から率いる酒井俊幸監督と、監督補佐としてチームを支えながら18年から競歩選手を指導する妻の瑞穂コーチだ。今回の第100回箱根駅伝でも東洋大は下馬評を覆して総合4位となり、19年連続シード権を獲得している。夫婦揃って日本を代表する多くのランナーを育て、世界の舞台を見据えて指導を続けているが、インタビュー中編では、監督就任後のチーム内での2人の関係性を追う。箱根駅伝で19年連続シード獲得という安定感の裏には、酒井監督を同志として支える妻の存在があった。(取材・文=牧野 豊)
東洋大学陸上競技部(長距離部門)酒井俊幸監督&瑞穂コーチインタビュー中編
大学陸上界では珍しい指導者夫婦がいる。箱根駅伝の常連校で通算4回の優勝を誇る東洋大学陸上競技部を2009年から率いる酒井俊幸監督と、監督補佐としてチームを支えながら18年から競歩選手を指導する妻の瑞穂コーチだ。今回の第100回箱根駅伝でも東洋大は下馬評を覆して総合4位となり、19年連続シード権を獲得している。夫婦揃って日本を代表する多くのランナーを育て、世界の舞台を見据えて指導を続けているが、インタビュー中編では、監督就任後のチーム内での2人の関係性を追う。箱根駅伝で19年連続シード獲得という安定感の裏には、酒井監督を同志として支える妻の存在があった。(取材・文=牧野 豊)
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2009年4月、酒井俊幸は母校・東洋大学の監督として、妻・瑞穂は監督補佐として指導を開始。チームは箱根駅伝で初の総合優勝を果たしたばかりだったが、2人がまず取り組んだのは、選手たちの日常生活における意識改革だった。
瑞穂が当時を振り返る。
「当時の大学の学長と理事から言われたのは、『東洋大学(の建学理念)は哲学の大学として始まったので、心を大事にする教育、本質を見抜ける人材育成に取り組み、東洋大学の伝統をつないでほしい』ということ。その上で箱根駅伝の総合優勝を目指してほしいと。それを聞いて、高校教諭だった私たち2人に話があった理由を理解しました。それは今でも変わらず、大学側と私たちとの約束事として大切にしている部分です」
その言葉から見ると、2人は依頼主の方針に沿ってチームづくりを実践する「仕事人」のような姿勢で、業務を引き受けたと言える。
では、具体的にその指導内容はどういうものなのか。俊幸が説明する。
「平常授業時は学業を優先すること、日常での挨拶はもちろん、例えば、気づいた者が寮近辺の落ち葉を拾う、汚れている床を拭くといった行動を強制ではなく、習慣化できるように教えていくことです。学生スポーツですから競技成績の浮き沈みは当然ありますが、日常生活における基礎・基盤は長きにわたり、そのチームの礎になるものです」
2人は就任当時、全国でトップクラスの成績を収めていた同大学野球部の元監督・高橋昭雄(2022年逝去)から、玄関やトイレ、寮回りといった公共部分の清潔度などを例に挙げながら、その重要性について教示してもらったという。「本当に強いチームはやはり、日常生活がしっかりしていることを目の当たりにしました」と俊幸は振り返る。
「心を大事にする教育」を実践するため、2人は監督と監督補佐、それぞれの役割に徹してきた。
基本は俊幸が練習と学生生活全般、瑞穂は俊幸がカバーしにくい日常生活の指導を担い、体調面・心理面の相談に乗っている。俊幸が表舞台に立つことがほとんどだったが、瑞穂が果たしてきた役割も大きかった。