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高校教諭2人に訪れた突然の転機 東洋大・酒井監督夫妻、「福島→埼玉」行きを決断した激動の3か月

思いつきで押したわけではなかった夫の背中

 現実的に対応する俊幸とは一見対照的に見える瑞穂だが、決して思いつきで夫の背中を押したわけではない。

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 競歩の選手だった日本女子体育大学1年の時に知人を通して俊幸と知り合って以来、「シード権争いをしているが、ずっと箱根駅伝優勝をあきらめずに目指していたチーム」として東洋大学を応援し、自分の母校のように捉えていた。夫婦で選択を迫られている最中、そんなチームが箱根駅伝本戦で奮闘。67回目の出場の末に初めて総合優勝をつかみ取ったことも、夫の背中を押す力を強くした。2人と同じ福島出身で、のちに箱根史にその名を刻むことになる柏原竜二が5区で鮮烈な「山の神」デビューを果たした時だ。

「箱根の山では、私たちと同じ福島出身で交流のあった柏原の走りを目にしましたし、とにかく初優勝に感動して。だから、今後は東洋大学が強豪であり続けるために支えていければという思いが湧いていました。私の指導者としてのキャリアは、毎年指導してきた県内の競歩選手をインターハイ、国体に入賞させることもできていたので、これからは夫をサポートする立場で東洋大学を支えたいという気持ちのほうが強くなっていました」(瑞穂)

 もう一つ、俊幸を近くで見ていたからこそ、想う部分もあった。

「夫は教員、指導者としてだけでなく、複数の校務の分掌や学校外の陸上関連の仕事など、いろんなことを頼まれやすいタイプで、受けたものは睡眠時間を削ってでもすべて責任を持ってやる性格なんです」

 それゆえ、時に許容範囲を超えてしまうこともあった。大学では教員ではなく、陸上部監督としての専任業務となる。俊幸が一つのことに集中すれば、より力を発揮できるのではないか――。それが縁深い大学から請われる形で声をかけてもらっているならば、なおさらやり甲斐のある舞台になるのではないか。

「陸上を極めようとする指導者と選手が融合すれば、すごくいい結果が生まれるという思いがありました」

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牧野 豊

1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「NBA新世紀」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。22年9月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。

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