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五輪4大会連続出場の夢消滅 タックル王子・高谷惣亮、34歳 それでも「引退はしない」の真意

日本レスリング界を牽引してきた高谷惣亮【写真:Getty Images】
日本レスリング界を牽引してきた高谷惣亮【写真:Getty Images】

「引退はしませんよ。でも、選手としては一区切り」

 14年世界選手権74キロ級で銀メダルを獲得したが、五輪では16年の7位が最高、それでも、メダルへの挑戦はやめなかった。食事やトレーニングなどストイックに自分を追い込んで肉体改造。「タックル王子」と呼ばれた高速タックルを磨き、レスリングの幅を広げていった。と同時に抜群の発信力で日本レスリングの「顔」としてメディアやファンの前に立った。五輪のメダルこそなかったが、誰もが「日本のエース」と認めていた。

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高谷「(12年)ロンドンの後ぐらいから東京五輪まで(男子の)キャプテンでした。男子を引っ張る立場であることは周りからも言われたし、意識もしていましたね。でも、大変なことは特になかった。楽しかったですよ」

 笑顔で話したが、そんなはずはない。男子は高谷が出場した3大会で金2個を含むメダル7つと健闘したものの、金メダルラッシュに沸く女子と比較された。日本協会強化部内のゴタゴタもあったし、レスリングの五輪除外ピンチもあった。新型コロナ禍で東京五輪も揺れた。自身のことだけではなく、男子の代表として常に矢面に立たされた。「楽しかった」だけではないはずだが、それは一切表に出さない。

高谷「みんなまじめなんですよね。地味というか(笑)。僕は目立ちたがりなので、いろいろとやっていただけ。(全日本優勝後恒例の)パフォーマンスも、最初は批判されましたよ。でも、だんだん受け入れられてきたので。それも含めて、楽しかったですね」

 女子レスリングは「顔」である吉田沙保里の発信力で注目され、人気が出た。吉田の存在が、他の選手が競技に集中できる環境を作った。高谷も同じ。競技成績では差があるが、高谷の存在によって男子が注目され、他の選手が競技に集中できた面はある。日本協会の前強化本部長で拓大での恩師でもある西口茂樹氏は「本当に、お疲れさま。高谷が男子を引っ張ってくれた。まじめに競技に打ち込むだけでなく、エンターテインメントとして発信してくれた部分も大きい」と称賛。さらに「まだまだ、これからも頑張ってもらわんと」と今後にも期待した。

高谷「引退はしませんよ。でも、選手としては一区切り。特にゴールというのは考えていないし、ないけれど、指導や研究でレスリングにはかかわり続けます。まずは弟(パリ五輪74キロ級代表の大地)がメダルをとれるように、バックアップもしたい。『自分の分も』などというつもりはないけれど、やっぱり五輪のメダルは大きいですからね。とってほしい。大学生の指導も、選手勧誘とかもあって忙しいけれど、大丈夫です。あとは、家に帰って子どもと遊ぶことですかね(笑)」

 全日本選手権12連覇、五輪3大会連続出場、世界選手権銀メダル獲得……その数字だけでも凄いが、男子レスリングの「顔」として記録以上に記憶に残った選手だ。今後も、強化、普及、日本レスリング界の発展、とかかる期待は大きい。10年以上に渡って男子レスリングを引っ張ってきた第一人者は現役生活を振り返りながらも「まだまだ先はありますから」と前を見据えることも忘れなかった。

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

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荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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