五輪4大会連続出場の夢消滅 タックル王子・高谷惣亮、34歳 それでも「引退はしない」の真意
涙はなかった。トップレスラーとして走り切った日々を振り返り、レスリング男子86キロ級の高谷惣亮(34=拓大職)は笑顔をみせた。24日まで東京・代々木第二体育館で行われた全日本選手権で敗れ、五輪4大会連続出場の夢がついえたが、レスリングは続く。「現役引退」を否定しながらも「一区切り」とした選手生活。10年以上日本の男子レスリングを引っ張ってきた「タックル王子」が今、思うことは。(取材・文=荻島 弘一)
全日本選手権で敗退 日本レスリングを10年以上引っ張って来た男が今、思うこと
涙はなかった。トップレスラーとして走り切った日々を振り返り、レスリング男子86キロ級の高谷惣亮(34=拓大職)は笑顔をみせた。24日まで東京・代々木第二体育館で行われた全日本選手権で敗れ、五輪4大会連続出場の夢がついえたが、レスリングは続く。「現役引退」を否定しながらも「一区切り」とした選手生活。10年以上日本の男子レスリングを引っ張ってきた「タックル王子」が今、思うことは。(取材・文=荻島 弘一)
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「大人ですから」。大会最終日の24日、スタンドの高谷は笑いながら言った。前日23日、パリ五輪へつながる86キロ級決勝で10歳年下の石黒隼人(自衛隊)に2-3の僅差で敗れ、五輪出場の可能性が消滅した。敗戦の悔しさからか目に涙をため、発する言葉も見つからなかった。一夜明けていつもの雄弁さも復活。後輩に声援を送り、アドバイスし、仲間と談笑する姿があった。それでも、試合を振り返る言葉には、悔しさがにじみ出た。
高谷「結局、押し出されて失った1ポイントの差でしたね。大差で負ければ違う感情だったかもしれないけれど、内容は互角。体力的には問題なかったんですが、筋持久力が足りなかった。この大会のために追い込んでトレーニングしてきたけれど、あと少しでしたね」
準決勝まで積極的に攻めることができず、自身も「根性なし」と反省していたが、決勝はカウンターを恐れずに持ち味のタックルで果敢に攻めた。それでも足をとってからの一歩が出なかった。全日本選手権では10年大会の準決勝以来の敗戦。マットから離れがたいのか、スタンドからの拍手に応えるように何度も手をあげ、頭を下げた。
高谷「天皇杯(全日本選手権)決勝のマットって、すごくキラキラと輝いているんです。最初はそうでもなかったけれど、何度も立つうちに気がついた。特に、今回は輝いていました。レスラーにとっては、特別な場所。ずっと立っていたいという気持ちはありましたね」
特別な思いで臨んだ大会だった。大きな転機は今年4月、11年在籍したALSOKを退社して母校拓大の監督に就任したことだ。筑波大大学院で映像分析の研究を続けながら、指導者としても多忙な毎日。練習時間も限られる中、マットに上がるのは理由がある。
高谷「今回は、自分のためではなかった。周囲の人のため。まずは監督として、学生に戦う姿、試合に臨む姿勢を見せたかった。まず自分がやって見せる。(22年9月に誕生した)子どもにも、戦うパパの姿をみせたいですし。結局、負けてしまったけれど、見せるべきものは見せられたかなと思います」
男子で日本レスリング界初となる4大会連続の五輪出場は逃したが、12年ロンドンから16年リオデジャネイロ、20年東京と3大会でも大記録。かつては日本代表になれば五輪に出られたが、現在はアジアや世界予選を突破しないと代表になれない。10あった階級も徐々に減って今は6と狭き門。92年バルセロナ大会で予選が導入されて以降、フリースタイルで3大会連続出場を果たしたのは高谷だけ。それも予選突破が難しい74キロ級や86キロ級での出場だから価値は高い。
高谷「東京五輪代表が苦戦した今回の結果を見ても、連続出場って難しいんですよ(笑)。3大会連続って、自分でもよくやったと思います。ただ、メダルはとれなかった。過程が大切だとはいうけれど、結果が出て初めて見てもらえるのが過程ですから」