敗北は「プロセスの全否定」じゃない ラグビー日本代表が未来に託した「目標はW杯優勝」の遺産
坂手淳史「南アフリカ戦の影響を受けた。今回も未来に繋がっていくように…」
8強だった「ONE TEAM」を超え、独自のチームをつくりあげる意味合いの「Our Team」。戦術と志を共有し、全員が同じ方向を見るための「セイムページ」。時にはバーベキューを開き、合宿のホテルに設けた「絆ルーム」では卓球やゲームで選手間の距離を縮めた。滞在先には兜を持ち込み、各試合で首脳陣が選ぶチーム内MVPは「ソード(刀)賞」と名付けられている。
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勝利後のロッカーなどで歌う独自のチームソングにも「侍」のワードを入れた。試合の勝負所で「侍タイム」と声を掛け合うのは、苦しい時間を乗り越えるため。発した時点で全員がやるべきことを再認識し、体が同時に、無意識に動くまで鍛錬してきた。FW陣は「ブラザーフッド(戦友)」で強固な塊に。姫野は君が代の歌詞の意味を調べ、伝えた。
坂手淳史「日本代表は言葉を大事にしてきた。その中で言葉だけで終わらせるのではなく、体現することに重きを置いている」
中でもチームに勇気を与えたのが「柱」と呼ばれる選手たち。試合登録の23人に入らない練習のサポートメンバーのことだ。柱がないと城(チーム)が崩れることからつけられた言葉。タックル練習など痛みを伴う役を引き受ける。普段と異なるポジションを務めれば、自分の調整はできない。晴れて登録メンバーに入ると、外れた仲間は「おめでとう」と心から祝福した。
中村亮土「本当にそこは日本代表の強み。ハードワークをしてくれるし、『チームのために』の想いが一番先に来るメンバーしかいない」
W杯優勝までの道のりを世界一高い山・エベレストの登頂に例えた。大会本番を酸素濃度の低い過酷な登山ルートになぞらえ、「デスゾーン」と呼ぶ。強い覚悟がさらに強くなり、迎えた負けたら終わりのアルゼンチン戦。稲垣は「刀を抜いたら相手を殺す時か、自分が死ぬか」と現状を侍文化に倣って伝えた。
夢破れたが、随所に見せた速いアタックは客席の中立ファンを味方にするほど魅力的だった。南アフリカ撃破から8年。坂手、松田力也、シオサイア・フィフィタは当時、日本でテレビ画面越しに興奮した。齋藤直人、ワーナー・ディアンズは日本大会から夢をもらった。バトンは確かに繋がれ、今に至る。
坂手「南アフリカに勝った時は大学生でした。大きな影響を受けて今、ここにいます。2023年、今回のアルゼンチン戦も未来に繋がっていくような、そういう想いを持ってくれる選手たちが日本にもたくさん生まれてくれると思う」
フィフィタ「最初に日本に来た時、実はあまり日本代表に入れるという気持ちはなかった。高校2年の時に南アフリカ戦を見て、『やっぱりW杯という舞台に立つことは凄いんだな』という想いになった。いつかW杯の舞台で世界と戦いたい、と」