世界陸上王者を生み続けるエチオピアの秘訣 日本にはいない「貧困脱出の伝説的ロールモデル」
エチオピアが日本に好影響を与えるものとは
「彼らの多くは投資をしている」とセイム氏。伝説的ランナーの足跡を明かす。
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「彼はアセッラというとても貧しい村出身なんだ。毎日走って通学して、学校から帰ったら家族を助けていた。十分な教育は受けられなかったんだ。家族は人数が多く、必死で働かなくてはいけない。土地を耕したりね。教育や医療を受けるためにはかなり遠くまで行く必要があった。大変なことだ。でも、彼はその後、多くの貧しい人たちを助けているんだ。とても寛大な人だよ」
走ることで人生を変えた。夢を与えた国民の星。日本にはなかなかいない。「ほとんどのランナーもその村の出身だ」とセイム氏。今では多大な影響力を持つという。
「リゾートホテルを持っている。ヒュンダイとパートナーシップを組んでるよ。巨大なホテルを建てたんだ。『ハイレ・グランド』という名前だ。彼の名前がブランドネームになっている。アスリートから投資家になった典型的な例。チャンピオンシップの後には、いつも政府から賞金を得てきた。高層ビルを建ててね。パイオニアだよ」
そんな夢を追って世界で成功を収めた選手は、1人や2人ではない。今大会は女子1万メートルでメダルを独占するなど、23日までにメダル6つを獲得した。そんな国が日本選手に好影響を与えられるものは何なのか。セイム氏は日本のマラソン実績を踏まえ「私たちは似たカルチャーを持っている」と言う。
「日本も持久力競技で優れているだろう。それがエチオピアのアスリートから学べるところだ。世界中のあらゆるところから素晴らしいアスリートが集まって、このスポーツを進化させないといけない。1万メートルの国際的な大会はこの大会だけですよね。1万メートルの大会が減ってきている」
セイム氏は「日本のアスリートが競い合ってくれたら、それはモチベーションになる」と切磋琢磨を求めた。田中希実や大迫傑は近年ケニアで武者修行。同様に高め合う選手が増えることを願っている。
「競争は良いことだ。特にマラソンでは世界陸上や五輪を見れば、アフリカと日本の選手が出てくる。エチオピアともっと競い合えば、日本の選手も勝つようになるんじゃないかな。互いにインスピレーションになる。エチオピア選手は、日本選手に刺激を与えられるはずだ。
設備は整っていないけどね。世界陸上に来るたびに、5週間ぐらい連続で新聞で文句を書いたよ(笑)。エチオピアにはトラックがないってね。日本の企業が援助してくれればいいのに。トラックを作って、日本の選手が来て一緒に練習するんだ。互いに学べるし、刺激し合える。モチベーションにもなる。特にマラソンでは、多くの日本人が活躍するところを見てきた。エチオピアのアスリートも一緒に学べると思うよ」
ハングリー精神は伝播し、競争心を生む。「陸上は私の情熱だ」と競技愛を溢れさせるエチオピア記者は、そんな関係性を臨んでいた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)