人口14万人の街に40億円新スタジアム誕生 「岡田武史マジック」がFC今治に生み始めた好循環
今治の企業理念「物の豊かさより心の豊かさ」が意味するもの
「スタジアム建設に関しては、クラブが中心的な存在に見えるかもしれないですが、設計者さんと施工者さん、そして彼らを支える取引先や素材メーカーを含めた総力戦でしたね。その結果として、40億円という限られた金額の中で、ベストのものを作ることができたと思っています、本当にコストカットの連続で、これだけのものができたんですよ」
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そう語る中島が、一例に挙げたのが、スタジアムの外周に設置されたコンテナ型のトイレ。実は東京五輪のために作られたものである。無観客となって使用されず、そのまま朽ちていく前に譲り受け、クラブカラーに塗り直したそうだ。
そうした工夫と努力の積み重ねがあって、今治里山スタジアムは40億円で完成した。そのうち半分の20億円は、銀行の融資によるもの。やはり岡田武史がクラブの代表だから、銀行は融資したのだろうか。私の先入観に「そうではないです」と、中島はやんわり否定する。
「現体制になったばかりの頃は、岡田マジックがないとなかなか動かないものが、多くあったと思うんです。けれども僕らも、今年で9シーズン目ですからね。銀行さんもビジネスですから、貸し倒れのリスクがないのか、きちんと精査されての決断だったはずなんです。その時に何を見ているかといえば、事業計画だけではなくて、我々がこの9年、この地域でどう頑張ってきたか。そこの部分も認めていただいての、評価だったと考えています」
岡田が代表となった2014年以降、FC今治が遵守している4つのミッションステートメントがあり、その上位にはこのような企業理念がある。
《次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。》
中島は当初、この企業理念にある「物の豊かさより心の豊かさ」という意味が、あまりピンとこなかったという。
「だって心の豊かさだけを重視して、クラブが貧乏になってしまったら潰れてしまうじゃないですか(笑)」
それが具体的に実感できるきっかけとなったのが、まさに今治里山スタジアムだった。
「このクラブが、心の豊かさという無形資産を追求し続けてきたからこそ、スタジアムという有形資産になって返ってきたわけですよ。『そうか、このことか!』って思いました」
ちなみに今治の公式サイトには《心の豊かさを大切にする社会とは、売り上げ、資本金、GDPなどという目に見える資本ではなく、知恵、信頼、共感など数字に表せない目に見えない資本を大切にする社会。》という註釈がある。サッカーの勝敗や昇格だけでなく「心の豊かさを大切にする社会」を目指すという理念の延長線上に、今治里山スタジアムの誕生があったのである。