高校3年間の部活を「楽しかった」と振り返れるか 知日家ドイツ人が伝えたい勝利より大切なこと
サッカー・Jリーグで横浜フリューゲルスや浦和レッズなど、4クラブの監督を務めたゲルト・エンゲルス氏は、1993年のプロ化以降、日本サッカーの急速な発展を当事者として見続けてきたドイツ人指導者だ。しかも初来日した当初は滝川第二高校サッカー部のコーチを務め、近年は女子サッカーの強豪INAC神戸レオネッサを率いるなど、Jリーグ以外の日本サッカーの姿も熟知している。
ゲルト・エンゲルス「日本サッカー育成論」第4回、勝ち負けが先行しがちな日本の部活
サッカー・Jリーグで横浜フリューゲルスや浦和レッズなど、4クラブの監督を務めたゲルト・エンゲルス氏は、1993年のプロ化以降、日本サッカーの急速な発展を当事者として見続けてきたドイツ人指導者だ。しかも初来日した当初は滝川第二高校サッカー部のコーチを務め、近年は女子サッカーの強豪INAC神戸レオネッサを率いるなど、Jリーグ以外の日本サッカーの姿も熟知している。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
30年以上にわたって母国と日本をつないでいるエンゲルス氏に聞く育成論。1990年の初来日から日本の部活動の実情も見てきたなかで、所属する高校生にとってサッカーが楽しいものではなくなっている光景を何度も目にしてきたという。相生学院高校サッカー部のテクニカル・ダイレクターに就任した今、育成年代の指導で大切なことを改めて語った。(取材・文=加部 究)
◇ ◇ ◇
日本サッカー協会は、2050年までに日本でワールドカップを開催し、その大会で優勝国になるという目標を掲げている。だがゲルト・エンゲルスは「どうして次の大会じゃないの?」と苦笑する。
「たぶん、この目標を掲げた人たちは2050年にはいない。もう日本はドイツにもスペインにも勝ったし、韓国やモロッコもベスト4を経験した。どうして『毎回ベストを尽くして優勝を狙う』ではいけないの? そもそも2050年大会までに……では、今20代の選手たちに失礼でしょう。ちょうどその頃にはドイツももっと賢くなっているかもしれないし、きっとブラジルだって変わっている」
1991年に滝川二高で特別コーチをした時に、オフがなく毎日トレーニングを続けている選手たちを見て「趣味が義務になってしまっている」と感じて改革を施した。全体を5つのチームにグループ分けしてミニ大会も開催し、選手個々がチームにとって大切な一員だということを実感してもらおうと試みた。
「本来、高校の指導で一番大事なのは、選手たちが35歳くらいになり結婚もして子供もできた時に、『あの3年間は本当に楽しかった』と振り返ってもらうことだよ。先日アーセン・ベンゲルがインタビューで話していた。プロのアカデミーの選手たちは、67%が21~22歳で本格的に競技から離れていくそうだ。つまり33%だけが上へ進み、そうでなければ辞める。
現在の日本の高体連の部活を見ていると、ピラミッドの底辺を支えている選手たちが毎日トレーニングをしていて、サッカーが趣味でなくなりつつある。でも勝ち負けばかりが先立ち、楽しさがなくなってくると厳しい。もう大学では辞めようか、と考えるようになってしまうよ」