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「お前はジダンのつもりか!?」 月給9万の高卒1年目、水野晃樹が名将オシムに出会えた幸運

選手の個性を見抜くのが「上手かった」

 気が引き締まる空気があった。

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 一度、練習中にオシムが血相を変えて笛を吹いて選手を集め、『お前ら全然集中していない! 頭を使えないなら、ずっと走っていろ!』と怒髪天を衝いたことがあった。選手がおどおどしていたら、ピッとまた笛で集められて、『お前ら、今日がなんの日か知っているか?』と問われ、選手がざわざわしていると、『今日はエイプリルフールだ』と“種明かし”をした。

「2本も走ったんで、嘘でしょって。茶目っ気のある人でしたけど、基本は怖いんで(笑)」

 水野はそう言って、充実した日々を回顧した。

「オシムさんは、それぞれの選手の特徴を捉えるのが上手かったですね。例えば自分が右サイドでボールを持ったら、『オーバーラップとか、絶対に言うな! 2対1にすると、ディフェンスも2枚ついてくる。それより、他の奴らは中へ突っ込め、クロスが来るから。水野の邪魔をするな』って。でも、同じところで羽生(直剛)さんが持ったら、『なんでオーバーラップしない! 羽生は1対1で抜けないぞ』って。選手を同じに見ていなかったですね」

 2006年、プロ3年目の水野は、着実に試合出場を増やしていた。右サイドからの攻撃は「晃樹システム」と言われたほど、その個性が生かされた戦い方だった。シーズン途中に退任したオシムのジェフで、ナビスコカップ連覇の立役者となって、MVPも受賞するのだ。

(小宮 良之 / Yoshiyuki Komiya)

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水野 晃樹

サッカー元日本代表 
1985年9月6日生まれ。静岡県清水市(現・静岡市)出身。清水商業高(現・清水桜が丘高)を卒業後、2004年にジェフユナイテッド市原(現・千葉)に加入。イビチャ・オシム監督の指導の下、2年目の05年に出場機会を増やすと、U-20日本代表にも選出されオランダでのワールドユース(現・U-20W杯)に出場した。07年にはJ1リーグで29試合9得点の活躍を見せ、日本代表にもデビュー。08年1月、セルティックへ初の海外移籍を果たすが怪我もあり不本意な結果に。10年6月に柏レイソルへ移籍して国内復帰を果たすと、8クラブを渡り歩き、今季からJ3のいわてグルージャ盛岡に所属している。

小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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