「お前はジダンのつもりか!?」 月給9万の高卒1年目、水野晃樹が名将オシムに出会えた幸運
選手の個性を見抜くのが「上手かった」
気が引き締まる空気があった。
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一度、練習中にオシムが血相を変えて笛を吹いて選手を集め、『お前ら全然集中していない! 頭を使えないなら、ずっと走っていろ!』と怒髪天を衝いたことがあった。選手がおどおどしていたら、ピッとまた笛で集められて、『お前ら、今日がなんの日か知っているか?』と問われ、選手がざわざわしていると、『今日はエイプリルフールだ』と“種明かし”をした。
「2本も走ったんで、嘘でしょって。茶目っ気のある人でしたけど、基本は怖いんで(笑)」
水野はそう言って、充実した日々を回顧した。
「オシムさんは、それぞれの選手の特徴を捉えるのが上手かったですね。例えば自分が右サイドでボールを持ったら、『オーバーラップとか、絶対に言うな! 2対1にすると、ディフェンスも2枚ついてくる。それより、他の奴らは中へ突っ込め、クロスが来るから。水野の邪魔をするな』って。でも、同じところで羽生(直剛)さんが持ったら、『なんでオーバーラップしない! 羽生は1対1で抜けないぞ』って。選手を同じに見ていなかったですね」
2006年、プロ3年目の水野は、着実に試合出場を増やしていた。右サイドからの攻撃は「晃樹システム」と言われたほど、その個性が生かされた戦い方だった。シーズン途中に退任したオシムのジェフで、ナビスコカップ連覇の立役者となって、MVPも受賞するのだ。
(小宮 良之 / Yoshiyuki Komiya)