「速いけど技術が足りない」の評価は日本のみ ドイツ人指導者が指摘、突出した個性を阻む価値観
理想は内側から闘争心が湧き上がる選手を育てること
目指す理想形としてアイスランドの環境を挙げる。
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「人口わずか37万人のアイスランドは、選手1人当たりの指導に当たるコーチの数が世界一。10人の選手に対し、必ずB級以上の指導者がついているそうです」
もちろん、アイスランドは常に世界のトップを争うような強豪国ではないが、2016年のEURO(欧州選手権)ではイングランドを下してベスト8に進出した。
「また最近読んだ記事によると、オランダのAZ(菅原由勢が所属)では、U-15からトップチームへ昇格する確率が47%だそうです。つまり、ほぼ2人に1人がプロになっている。トレーニングやメンタルなども調査をして、綿密なスカウティングをするのはオランダの哲学です。でもこうして獲得してきた選手を、必ず使うから伸びていく。
バイエルンのようなビッグクラブだと、多くの優秀な選手を育てても他のクラブへ移籍してしまう。しかしAZでは移籍のオプションも限られているので、自分のクラブのトップチームで使うしかない。本当はJリーグのクラブも、こうしてユースから上がってくる若い選手をもっと使っていかないと将来困ると思いますよ」
一方で突出した個の出現を遮っているのは、早い時期からチームで競わせ、チームの勝利を最優先する発想だ。ドイツをはじめ、欧州全体に若年層の全国大会を開く文化はない。
「勝とうとする意識は、とても大事です。でもそのためにフィジカルばかり強調されたり、大きな選手を集めてロングキックを多用したり、守備固めを優先したりするとサッカーは成長していかない。理想は内側から勝ちたいと闘争心が湧き上がるような選手を育てることで、監督やコーチが先走ってはいけない。もちろん負けたら怒るなんて不要です」
ドイツにはパワハラは一切ないという。しかし類似する問題点は潜んでいる。
「ドイツではU-19のチームでも、60~70%の選手には代理人がついている。また親の期待も大きい。いつの間にか、選手たちは親や代理人の期待に応えてプレーしようとし始め、やがて息苦しくなる。日本の高体連では、ずっと同じ監督のパワーの下に置かれるから、選手たちは大人しく従う。それはバイエルンのU-17の状況も似ている。みんなプロになりたいから素直に従う。必ずしも良い監督だから言うことを聞くとは限らない」
強烈な個を育てるなら、もっと個や個性に丁寧に向き合う必要がある。エンゲルスが指摘するのは、ごく当たり前の論理である。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)