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「3人プロを出し97人犠牲」では意味がない 高校サッカーの“見落とし”にドイツ人指導者が警鐘

25~30番目の選手も「試合に出ればもっと伸びる」

 現在、兵庫県の相生学院高校でテクニカル・ダイレクターを務めるエンゲルスは、過去に同県の強豪・滝川二高でも指導経験があるので、日本の育成事情にも詳しい。

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「日本の強豪校は、サバイバルの状況に近い。指導者の数は限られているので100人以上の部員すべてには集中できない。公式戦に出るには、そこから11人に勝ち残っていく必要があり、それには強靭なメンタルが必要になる」

 よくスポーツの世界では「メンタリティはタレント(才能)以上に大切」と言われる。そう考えれば、育成年代でサバイバル合戦の場を提供している高体連の仕組みは理に適っているという見方もできるのかもしれない。しかしエンゲルスは懐疑的だ。

「高体連が優れているというよりは、Jアカデミーが良くないと見るべきなのかもしれない。例えば、私は成長過程の選手たちを一律年齢で区切るべきではないと思います。同じ15歳でも、成長のプロセスが13歳の子も17歳の子もいる。それを考えずに簡単に切り捨ててしまうと問題が起こる。それはJアカデミーにも十分に言えることです」

 実際に日本では中村俊輔、本田圭佑に象徴されるように、Jアカデミーでユース昇格を逃した選手たちが、後に日本代表で攻撃の中核を担う選手となった。

「今でも日本は十分に優秀な選手を輩出している。でも1人ひとりをもっと大事にすれば、さらに違う才能が芽を出してくるはずです」

 同じ強豪校に数百人もの選手が集中する。これでは丁寧な育成は不可能で、結果として多くの才能が犠牲になっていく。

「3人のプロを出すために97人を犠牲にしていたのでは意味がない。いつもチームで試合に出ている4~5人の選手たちは突出しているのかもしれない。でも25~30番目くらいの選手たちだって、試合に出ていればもっと伸びている。

 何より100人も部員がいて同じ選手ばかりが試合に出ていたら、チーム内での逆転が見えてこない。特に高校では移籍ができない。無名の高校にも、もっと早く良い環境に入れていれば優れた選手に育った選手が必ずいる。そういう選手たちをしっかりと見つけて欲しいですよね」

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ゲルト・エンゲルス

元Jリーグ監督 
1957年4月26日生まれ。ドイツ出身。現役時代はボルシアMGに所属。引退後はケルン体育大学に進み、育成年代の指導も行った。1990年に初来日するとさまざまな縁で翌91年から滝川第二高校サッカー部のコーチに就任。93年から横浜フリューゲルスのコーチを務めると、クラブが消滅した98年には最後の監督となり天皇杯優勝に導いた。その後はジェフユナイテッド市原(現・千葉)監督を経て、2000年から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に移り、02年には監督として再び天皇杯優勝を達成。04年から08年まで浦和レッズでヘッドコーチ、監督を歴任した。11年からモザンビーク代表監督、20年にはINAC神戸レオネッサ監督を務め、現在は相生学院高校サッカー部を指導している。

加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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