「どうして日本なの?」と言われて初来日 ドイツ人の元J監督、32年後のW杯で母国撃破に感慨
いろいろな国の長所を「全部コピーするのは良くない」
20世紀末に低迷の兆しが見えたドイツは、謙虚に反省してライバル諸国の育成事情を学び、改革の成果が2014年ブラジル・ワールドカップで4度目の優勝という形で結実した。
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「確かにいろんな国の長所を取り入れ、ノウハウは増えた。ただ、いくら長所でも全部をコピーするのは良くない。自分の武器を軸にしながら、プラスアルファを加えていくべき。もしかするとドイツは、どこかでバランスを間違えたのかもしれません。ただこれからは、ドイツ人も日本のサッカーを軽く見ることはなくなるはずです」
どんな国にも適わないスポーツなどない。それがエンゲルスの持論だ。
「競技に対して人々の情熱が生まれ、文化として育まれていくまでには、とても時間がかかる。競技へ情熱が注ぎ込まれないと、ノウハウも増えていかず環境も整わない。例えば、私にはモザンビークの代表監督を2年間務めた経験がある。選手たちの才能や情熱は抜群だった。でも、まだ施設などの環境面が伴わず、結果に繋がらなかった」
現在のドイツや日本は真逆だという。ドイツには「好天選手」という言葉があるという。天候に恵まれ理想的なピッチコンディションの時には、素晴らしいプレーをする。ところが少しでも天候が荒れたり、ピッチが狭い、凹凸がある、故障が完全に回復していない……など、悪条件が生じると力を発揮できない。
「小さい頃からスター扱いされたのに途中で消えていった選手を、たくさんたくさん見てきた。なんでも完璧に揃った環境で続けていると、解決力が育たないのかもしれない。逆に家庭が貧しい、スパイクを買うのも難しい……、そういう環境で優れた選手は次々に育ってくる。何かが足りなければ、頭を使って別の方法を考える。そうやってメンタルが鍛えられ、物事を解決する力が育っていくのだと思います」
こうした観点からすれば、少数精鋭の恵まれた環境で過ごすJアカデミーより、高体連のほうが逞しい選手を輩出するのも頷ける。だが、それは本当に高体連の育成法が優れているという証左なのだろうか。
次回はプロから高校まで様々な日本の現場事情を知り尽くす、エンゲルスの見解を引き出していく。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)