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「どうして日本なの?」と言われて初来日 ドイツ人の元J監督、32年後のW杯で母国撃破に感慨

サッカー・Jリーグで横浜フリューゲルスや浦和レッズなど、4クラブの監督を務めたゲルト・エンゲルス氏は、1993年のプロ化以降、日本サッカーの急速な発展を当事者として見続けてきたドイツ人指導者だ。しかも初来日した当初は滝川第二高校サッカー部のコーチを務め、近年は女子サッカーの強豪INAC神戸レオネッサを率いるなど、Jリーグ以外の日本サッカーの姿も熟知している。

2018年にヴィッセル神戸でヘッドコーチを務めたエンゲルス氏(左)。吉田孝行監督(右)は横浜フリューゲルス時代の教え子だった【写真:Getty Images】
2018年にヴィッセル神戸でヘッドコーチを務めたエンゲルス氏(左)。吉田孝行監督(右)は横浜フリューゲルス時代の教え子だった【写真:Getty Images】

ゲルト・エンゲルス「日本サッカー育成論」第1回、1990年に初来日して見た現実

 サッカー・Jリーグで横浜フリューゲルスや浦和レッズなど、4クラブの監督を務めたゲルト・エンゲルス氏は、1993年のプロ化以降、日本サッカーの急速な発展を当事者として見続けてきたドイツ人指導者だ。しかも初来日した当初は滝川第二高校サッカー部のコーチを務め、近年は女子サッカーの強豪INAC神戸レオネッサを率いるなど、Jリーグ以外の日本サッカーの姿も熟知している。

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 30年以上にわたって母国と日本をつなぐエンゲルス氏に聞く育成論。今回は1990年当時の日本サッカー界の環境を知るからこそ、昨年のカタール・ワールドカップで日本がドイツを2-1で破った試合を見て感じたことについて語った。(取材・文=加部 究)

 ◇ ◇ ◇

 ゲルト・エンゲルスが初めて日本の土を踏んだのは1990年だった。

 母国の西ドイツ(当時)は、同年のイタリア・ワールドカップで優勝を飾った。ところが、その世界一の国でU-18代表にも選ばれ、トップクラブ(ボルシアMG)の在籍経験も持つ選手が、まだアマチュアしかない日本へ旅立つのだから、当然周囲の視線は懐疑的だった。

「どうして日本なの? サッカー、やっていないでしょう……」

 実際エンゲルスは、この頃の日本の現実に直面して少なからずショックを受けた。サッカーのテレビ中継が見当たらず、新聞にも記事がない。公園でサッカー教室を開けば、野球帽を被った子供たちがボールを蹴るのではなく投げ合っていた。

 そんな時代を知るからこそ、昨年のカタール・ワールドカップでの出来事は青天の霹靂であり、感慨深くもあった。

「ワールドカップの抽選で、日本がドイツと当たることになった時は本当に嬉しかった。日本での生活は30年間以上になる。ようやくこんな日が来た、とね。もし対戦相手がドイツ以外なら、100%日本の応援をしていた。でも、さすがにドイツが負けた時は少し寂しくなりました」

 ドイツの歴史を俯瞰すれば、低い下馬評を覆すことはあっても、番狂わせの標的になることは稀だった。

「カタール大会で戦ったチームは、世界のファンがよく知るドイツではなかった。今までドイツは、内容が良くなくても準決勝や決勝まで勝ち進んできた。よくゲルマン魂の賜物だと言われたものです。ところが今回は、スペインと同じようにとても良いサッカーをしていた。内容を見る限り、日本には10回戦ったら残りの9回は勝つだろうし、もし前半で追加点を奪えていれば申し分なかった」

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ゲルト・エンゲルス

元Jリーグ監督 
1957年4月26日生まれ。ドイツ出身。現役時代はボルシアMGに所属。引退後はケルン体育大学に進み、育成年代の指導も行った。1990年に初来日するとさまざまな縁で翌91年から滝川第二高校サッカー部のコーチに就任。93年から横浜フリューゲルスのコーチを務めると、クラブが消滅した98年には最後の監督となり天皇杯優勝に導いた。その後はジェフユナイテッド市原(現・千葉)監督を経て、2000年から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に移り、02年には監督として再び天皇杯優勝を達成。04年から08年まで浦和レッズでヘッドコーチ、監督を歴任した。11年からモザンビーク代表監督、20年にはINAC神戸レオネッサ監督を務め、現在は相生学院高校サッカー部を指導している。

加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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