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プロになった今、不思議に思う 田中希実、遊びと競技の曖昧な境目「あの頃の私はどこに」【田中希実の考えごと】

陸上女子中長距離の田中希実(New Balance)は複数種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる。達観した思考も魅力的な23歳の彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。「THE ANSWER」では、陸上の話はもちろん、日常の出来事や感性を自らの筆で綴る特別コラム「田中希実の考えごと」を配信する。

小学生時代の田中希実(前列中央)、本人が思う「遊びと競技の境目」とは【写真:本人提供】
小学生時代の田中希実(前列中央)、本人が思う「遊びと競技の境目」とは【写真:本人提供】

本人執筆の連載「田中希実の考えごと」、第3回「昨日の話」

 陸上女子中長距離の田中希実(New Balance)は複数種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる。達観した思考も魅力的な23歳の彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。「THE ANSWER」では、陸上の話はもちろん、日常の出来事や感性を自らの筆で綴る特別コラム「田中希実の考えごと」を配信する。

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 長年の日記によって培われた文章力を駆使する不定期連載。第3回は「昨日の話」をしたためた。4月にNew Balance所属となってプロに転向。新しい環境から世界に挑戦する中、走り始めた頃の思い出を振り返り、「遊びと競技の境目」を考えた。存分に遊び感覚で走っていた自分はどこに行ったのか。すると、「不思議の国のアリス」が語りかけてきた。

 ◇ ◇ ◇

 田中希実の考えごとというコラム名よろしく、考えごとをしているうちに、気づけば前回の掲載からかなり時間が経ってしまった。

 もうそろそろ何か書こうと、やっと思い始めた頃、WA(世界陸上競技連盟)から、5月7日のKIDS ATHLETICS DAYに向けてのコメント依頼を頂いた。なんでも、世界中の子どもたちに陸上競技の楽しさを伝え、子どもたちが陸上を通して心身ともに健康になる推奨コメントを、とのことらしい。

 その際、自身が子どもの頃の陸上競技の思い出を交えてもなおよし、と言われたものの、私には単なる宣伝より個人的な思いを語ることの方が向いている。結局、つらつらと思い出を述べるだけの動画がそのまま使われるはずもなく、編集でばっさり切り捨てられていたが、一旦思い出の蓋を開けてしまうととめどがなく、書き留めてみたくなってしまった。以下、雑文失礼致します。

 陸上競技をいつ始めたのかと問われると、いつも返事に困る。

 保育園の頃からロードレース大会には参加していたからだ。ただ、それも市民ランナーである母がレースを走るついでに、親子部門にもエントリーしていたまでで、競技性は一切なかった。一緒に走る両親もちっとも急かさないし、お腹が痛くなることだってあったし、最下位になったりもした。かといって、楽しいとも、しんどいとも思わず、ピストルが鳴ればとりあえず走り出し、その後は知らないといったものだった。

 小学生になってからは、瞬発力は皆無だが、なんともいえない奇妙なフォームで、初速度のままゴールまで走り続けられるようになった。そのおかげで校内マラソンでは勝てるようになったが、学校内、学年内という狭い基準で速い遅いを判断する友だちを冷めた目で見ていた。

 というのも、相変わらず母のついでにロードレースの子ども部門で走っていて、その都度ランニングクラブ所属の子たちに歯が立たない思いをしていたからだ。ただ、毎回入賞するかしないかを彷徨うレベルにいたことで、走るにあたっての気持ちが少しずつ競技性を帯び始めたのは間違いない。

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田中 希実

 1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、兵庫・西脇工高に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月からNew Balance所属となり、プロ転向した。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。公式インスタグラムは「@nozomi_tanaka_official

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