日本人分析班は「本当に優秀だった」 J1神戸の元コーチ、感銘受けた名将のチーム管理術
監督業復帰の予感とサッカー一色ではない人生への思い
改めて長い歳月を通して偉大な名将たちの仕事ぶりを間近で見てきたことは、モラスの貴重な財産になっている。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
「ラングニック、フィンク、それにザルツブルクではジョバンニ・トラパットーニ(ユベントスなどで黄金期を築いたイタリアの名将)などの仕事ぶりに接することができた。これはとても幸運なことでした」
現在はザンクト・ペルテンでテクニカルダイレクターの仕事をしているモラスだが、いずれは監督の仕事に戻る予感がしている。
「今の仕事も、必ず現場に戻った時に役立つと思うんです。たぶん、これからの監督は、ピッチ上のことだけを完璧にこなせば良いというわけにはいかない。ピッチ外のことにも、理解を示せる監督が求められていくと思います。だからこそ僕が、多くの名将たちからヒューマン・マネジメントについて学べたことがきっと活きてくる」
もっとも監督としてのモラスは、野心家というよりは冒険家の色が濃い。
「スペイン、イングランド、イタリアなど世界のブランドには、それほど興味が湧かないんです。先日ノルウェーのトロムソというクラブを訪れました。ここは12~1月くらいまではまったく太陽が昇らず、地球上で最北のプロクラブ。もしここからオファーがあったら、それもありだな、と考えました。
サッカーを通して違う文化に触れ、現地の人たちの力になる。面白いじゃないですか。同じように東南アジアや北アフリカにも拒否反応はないですし、カナダのプレミアリーグでも面白いプロジェクトがあればいいな、と思うかもしれない」
欧州というフットボールのメッカに20年以上も身を置き、現地では他の日本人には例がないほど幅広いネットワークを築いてきた自負はある。しかしサッカーという軸は不変でも、サッカー一色の人生は送りたくない。
「指導をするのに男女の拘りもあまりないんです。ただ人生が終わる時に、ドイツ語圏と日本しか知らなかったというのは、絶対に嫌なんです。いつも違う文化に触れながら、サッカーの仕事をやれている。そうありたいですね」
気がつけばインタビュー時間は優に3時間を超え、次の約束が迫っていた。
「こんなことばかり話していると、また変わり者だと思われちゃうかな……」
慌ただしく握手を済ませると、ラップトップを片手に走り去っていた。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)