最強の兄・尚弥と比べられた日々「でも、それは百も承知」 井上拓真、努力で掴んだ真の世界王座
尚弥「気を抜いたらやられる。拓真を突き放す気持ちでやっている」
陣営の大橋秀行会長は「兄と違う持ち味がある」と評価する。卓越したフットワークやハンドスピードは一級品。比べられても関係ない。力でねじ伏せるのではなく、スピードと連打でリングを支配すればいい。尚弥は「気を抜いたらやられるなって常に感じる。拓真を突き放すという気持ちでやっている」と過去に明かしていた。拓真は少しずつ、着実に自分のスタイルを磨いていった。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
精神的にも逞しくなり、近年は兄弟スパーも再開した。拓真にとって最強のお手本との真剣勝負。ずっと一緒に上を目指し、誰よりも高い目標でいてくれた。だから、ここまで強くなれた。
「負けてからボクシングを見つめ直したのが大きい。より練習に集中した。より一層ボクシングを考えるようになって、内容も濃くできている。負けてからのキャリアが凄く充実していた」
自信を持って再び世界挑戦できるレベルに成長した。いつ世界を獲ってもおかしくなかったが、尚弥の4団体統一が目前。同じジム、しかも兄弟で王座を奪い合うなんてことはありえない。「ナオ(尚弥)がバンタム級にいるうちは世界戦ができない。ここは辛抱の年だと思って戦ってきた」。歯を食いしばり、チャンスを待った。
昨年12月、尚弥がアジア人初の4団体統一を達成。スーパーバンタム級に転向し、4つのバンタム級王座を返上した。「今度は自分が一つずつベルトを集める」。拓真がバンタム級へ。今まで口にしてこなかった「4団体統一」を目標に掲げるようになった。「世界王者になるという目標より、もっと高い目標を掲げた方が自分自身も成長する」
兄の返上したベルト。タレント揃いの階級でその争いは激しい。それでも、弟が一番先に奪い取ってみせた。尚弥は「拓真のボクシングをまずは徹底できた。勝てたのは合格点。ボクシングもそうですけど、気持ちの成長を感じる」と労い。「一つひとつ成長していけたらいい」とさらなる成長に期待した。
まだ完璧ではないことは、拓真が最もわかっている。
「自分一人ではここまで来られてない。試合中、初めてカットするハプニングもあり、その中で勝ち切れて自信になった。兄が手放した4団体統一を公言している以上、自分はバンタム級で4団体統一することを目標に頑張っていく」
兄は歴史に名を残すボクサーかもしれない。でも、拓真には拓真の色がある。「尚弥の弟」ではなく、「世界王者・井上拓真」として独自の道をつくっていく。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)