吉田麻也と国歌斉唱で話題 車いすの中大サッカー部員・持田温紀がW杯で体験した奇跡の日々
今度は自分が「人に夢を与えられる存在になりたい」
スペイン戦の試合前に選手と並んで国歌斉唱した姿は、国際映像を通じて日本にも流れたため、当然ながら反響は凄まじかった。試合中から持田さんのLINEには多くのメッセージが殺到。次々と信じられないような出来事が起こったカタールW杯観戦の旅となったが、この体験は自身のその後にどのような影響を与えているのだろうか。
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「僕が言うのもあれですけど、吉田麻也選手や森保監督のように周りが見えていて思いやりの気持ちを大事にしていれば、そして三笘選手のあの“1ミリ”のように最後まで努力を突き詰めていけば奇跡って起こるんだなと学んだので、今はすごくポジティブに毎日を過ごせています。吉田麻也選手にとっても、あの試合は人生で最も大事な試合の1つだったと思うんです。そうした試合でもああいうことができるという姿を見て、僕も人生で一番大事な瞬間でも、思いやりの持てる人になっていきたいなと感じますし、本当に人生で最も実りある20日間だったなと思います。日々奇跡が起きていきましたから」
帰国してから約3か月、持田さんは最終学年で迎える今シーズンに向けて、中大サッカー部の事業本部スタッフとして再び奔走している。そして自身は、今年度のUNIVAS AWARDSで「サポーティングスタッフ・オブ・ザ・イヤー」最優秀賞という栄誉を手にした。「僕は本当にサッカーからもらったものが大きいですし、それを世界のどこかで伝えていくことができたらなと感じているところです。本当にサッカーが好きで良かったなと思います」と語ると、今後について言葉を続けた。
「僕が長期入院していた経験があるので、長期療養をしている車いすや障害を持っている子を中大サッカー部のグラウンドに連れてきて、一緒に練習をしてもらうプロジェクトも動かそうとしています。今後はサッカーを通じて、いろいろな人に影響を与えることができたらいいなと感じています。
僕はサッカー選手として、日本代表になるという夢は叶えられませんでした。ある意味、カタール・ワールドカップのピッチに代表選手と一緒に立つことができ、幸運にもそれは叶えられたのかもしれないですけど……、今度は自分自身がサッカーを通して、人に夢を与えられるような存在になっていきたいなと。本当にいろいろな方のおかげがあって、車いすになった自分が、ここまでサッカーに密に関われるようになるとは思っていませんでした。だからこそ今度は僕がそれを与えていきたいですし、いつかはまだワールドカップに出たことのない海外のどこかの国でサッカーチームを持ってみたいという夢もできました」
そしてもう一つ、持田さんにはやり遂げたいことがある。それはいつか、吉田に直接「感謝の言葉を伝える」こと。自らの人生で最高の瞬間を与えてくれた日本代表キャプテンの行動は、まさに奇跡と呼べる出来事だった。だがそれは、「サッカーが好きで良かった」と晴れやかな表情で繰り返す持田さんが、前向きでひたむきな気持ちを貫いたからこそ引き寄せた、天からの贈り物だったに違いない。
(THE ANSWER編集部・谷沢 直也 / Naoya Tanizawa)