吉田麻也と国歌斉唱で話題 車いすの中大サッカー部員・持田温紀がW杯で体験した奇跡の日々
「一緒に歌おう」吉田麻也から突然の一言
コスタリカに0-1で敗れた日本は12月1日、運命のスペイン戦を迎える。持田さんはこれまでの2試合よりも早くスタジアムに到着。コスタリカ戦のこともあったため、スタンドで日本の国旗を振っていたらFIFAのスタッフに再び声をかけられた。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
今回も試合前のピッチへ下り、運命の一戦に臨む選手たちを間近で見られる――。喜びを胸にキックオフ前に呼ばれると、そこで予想外の驚きが待っていた。グループリーグ最終戦からは選手と一緒に入場するエスコートキッズのように、車いすのサポーターもピッチ内に入り、整列した審判団の前に並ぶという取り組みに変わっていたのだ。
選手たちが入場した後、スタッフに誘導されてタッチラインの内側へ。そこで見た景色は、W杯の舞台に立つ選手にしか見られない特別なものだった。それだけでも持田さんにとって言葉には言い表せない感動的な瞬間だったが、さらなる奇跡が起こる。
「一緒に歌おう」
君が代が流れる直前、審判団の前にいた持田さんの車いすが後ろから引かれると、耳元で吉田がそう声をかけてきた。
「吉田麻也選手の神対応のおかげで列に加わらせていただいて……。あの時の僕は嬉しい気持ち、感動した気持ち、震える気持ちと、ありとあらゆる感情が人生で一番出た瞬間でした」
とてつもない重圧がかかるW杯の試合前、しかも負ければ敗退が決まるグループリーグ最終戦のキックオフ直前にそんな気遣いができるのは、吉田の選手としての器の大きさだろう。だが、持田さんがスペイン戦の直前に体験した心を揺さぶられる出来事はこれだけではなかった。
「僕は試合前、ロッカールームとピッチを繋ぐ通路みたいな場所に待機していたんです。そこに試合開始直前のウォーミングアップを終えた日本代表の選手が戻ってくるタイミングがあって。6、7メートルくらい離れていましたが、僕も邪魔をしてはいけないなと思って目が合ったら控えめに会釈するくらいだったんです。森保監督とも目が合ったので軽く会釈して、いったん森保監督の姿が見えなくなりました。でも次の瞬間、森保監督が引き返してきて僕とグータッチをしてくれたんです。監督として最も集中したい時間帯に、こんなに周りが見えているのかと驚きましたね。そして国歌斉唱が終わった後、僕がスタッフに連れられて戻る時も、ベンチの森保監督とチラッと目が合うと、自分の胸を叩いて『ありがとう』っていうメッセージを送ってくれたんです」