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勝利至上主義は「大人の問題」 高藤直寿が指摘する問題の本質と未来への影響

部活動やジュニア期のスポーツを語る時、解決すべき課題として挙がるのが「勝利至上主義」だ。日本では長らく、勝つことが絶対的な正義であり、負けは全てを無にするものと考えられてきた。だが、時代は流れ、社会的な価値観が変化するにつれ、勝利至上主義による弊害が顕在化。行き過ぎた指導や長時間の練習、言葉の暴力や体罰といった側面が、社会問題として取り上げられるようになった。

「勝利至上主義」について独自の見解を持つ高藤直寿【写真:近藤俊哉】
「勝利至上主義」について独自の見解を持つ高藤直寿【写真:近藤俊哉】

子どもの「勝ちたい」と大人の「勝たせたい」はまったく別もの

 部活動やジュニア期のスポーツを語る時、解決すべき課題として挙がるのが「勝利至上主義」だ。日本では長らく、勝つことが絶対的な正義であり、負けは全てを無にするものと考えられてきた。だが、時代は流れ、社会的な価値観が変化するにつれ、勝利至上主義による弊害が顕在化。行き過ぎた指導や長時間の練習、言葉の暴力や体罰といった側面が、社会問題として取り上げられるようになった。

【前編】探究し続ける基礎の重要性 “絶対王者”として目指す2つ目の金メダル / 柔道 高藤直寿選手インタビュー(GROWINGへ)

【後編】金メダリストを支えたライバルと恩師 柔道との出会いに感謝する今 / 柔道 高藤直寿選手インタビュー(GROWINGへ)

 そもそも「スポーツ」の語源とされるラテン語の「deportare」には、「気晴らしをする」「楽しむ」「遊ぶ」などの意味がある。上手くなりたい、いいプレーがしたいと練習を重ね、試合で勝ちたいと願うことは、決して間違いではない。だが、勝つために練習をやらされ、何も楽しめなくなってしまっては本末転倒だ。

 最近では、スポーツが持つ本来の意味に立ち返ろうという傾向が強まり、勝敗だけではなく、そこに至るまでの過程で得る経験や学び、そこから感じる成長などを重視。子どもたちがスポーツを楽しいと感じ、好きでい続けるための取り組みが、さまざまな競技において試行錯誤されている。

 そんな中、2022年8月、全日本柔道連盟は毎年恒例だった「全国小学生学年別柔道大会」を廃止し、その代替イベントとして「全日本小学生育成プロジェクト」を初開催した。イベントには全国から約200人の小学6年生が参加し、練習試合を行ったり、ルール講習や技術指導を受けたり、柔道により親しむ経験を積んだ。

 2004年から16回続いた大会を廃止した理由について、連盟の公式サイトでは「昨今の状況を鑑みるに、小学生の大会においても行き過ぎた勝利至上主義が散見されるところであります。心身の発達途上にあり、事理弁別の能力が十分でない小学生が勝利至上主義に陥ることは、好ましくないものと考えます」と説明している。

 ここでも登場した「勝利至上主義」について独自の見解を持つのが、東京五輪の柔道男子60キロ級金メダリスト・髙藤直寿(パーク24所属)だ。髙藤は2004年に第1回全国小学生学年別柔道大会の小学5年生40キロ級に出場し、決勝で丸山城志郎を破って初代王者となった。「大会がなくなると、パンフレットに第1回優勝者として載っていた僕の名前が消えちゃうので、元に戻してほしいですね」と冗談を言いながら笑うが、問題の本質に話が及ぶと真剣な眼差しで、言葉に力を込めながら想いを明かした。

「子どもたちが『勝ちたい』と思う気持ちと、大人たちが『勝たせたい』と思う気持ちはまったく別もの。そこの意味をはき違えてはいけないと思います。今、問題になっている勝利至上主義は、親や指導者の『勝たせたい』という気持ちが強すぎて生まれたもの。そこは子どもではなく、大人の問題なんですよ。だから、大人が解決しなければいけないことなんです」

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