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相手を煽るのも「心理戦で重要」 日本在住の恩師が語るW杯優勝アルゼンチンGKの凄さ

ジェリー・ペイトン氏(右)はアーセナルのGKコーチとしてマルティネスを指導、師弟の交流は今でも続いている【写真:Getty Images】
ジェリー・ペイトン氏(右)はアーセナルのGKコーチとしてマルティネスを指導、師弟の交流は今でも続いている【写真:Getty Images】

マルティネスが「大舞台に強いことは知っていた」

 ペイトンは、マルティネスがヘタフェに旅立つ前に、リーガ・エスパニョーラでシーズンを通してプレーをする大切さを説いた。

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「実際、私はバルセロナ、アトレティコ・マドリード、レアル・マドリードとの試合などを視察し、クラブには十分に素晴らしい出来だったと報告した。私はヘタフェでもエミが正GKに相応しいと思ったが、当時の監督はビセンテ・グアイタ(現クリスタル・パレス)を選択した」

 アーセナルは歴史の転換期を迎えていた。2017-18シーズンを最後にクラブの黄金期を築いたアーセン・ベンゲル監督が退任し、ペイトンも運命をともにする。一方、翌シーズンに向けてクラブは、新しくドイツ代表GKベルント・レノと契約した。新監督にはウナイ・エメリが就くが、翌2019年末にはミケル・アルテタ体制に移行する。アーセナルは、レノかマルティネスのどちらかを放出する選択に迫られることになった。

「私は直接アルテタに『エミがナンバーワンだ』と伝えたが、クラブはエミのほうを放出する決断をした。私は今でもレノを放出したほうが良かったと思っている。実際2019-20シーズンにはレノが故障をしたので、エミがいくつかの重要な試合でプレーをした。FAカップ決勝のチェルシー戦では、信じられないビッグセーブを3、4本見せてチームを2-1の勝利に導き、他にもマンチェスター・シティ戦やリバプール戦でも素晴らしい活躍を見せたんだ」

 2020年、マルティネスがアストン・ビラへ移籍する前に、ペイトンは話している。

「エミはもうナンバー2のGKではない。アーセナルで正GKになれないなら、他のチームでチャレンジしたほうがいい」

 ここからマルティネスは急変貌を遂げた。

 アストン・ビラではシーズン最優秀選手に選ばれ、2021年のコパ・アメリカでも最優秀GKとしてアルゼンチンの優勝を支えた。大会前にメッシは語っていたという。

「アルゼンチンには怪物(フェノメノ)GKがいるから、きっと勝てる」

 そしてペイトンにとっては、カタールW杯での大活躍も全く不思議ではなかったという。

「私はエミに限らず、一緒に仕事をしたすべてのGKの成功を信じている。彼らとは、いつも私がポジティブに向き合っていることを伝えてきた。もちろん、誰でもミスをする。エミもレディング戦で4失点、クリスタル・パレスやストーク戦で3失点などを喫したことがある。でもこうしたミスをなかったことにするのではなく、必ず分析をしてどうしたら良かったのかを話し合ってきた。それに私はエミが大舞台に強くて、瞬間的なパワーの爆発力の凄さを知っていた。だからカタールで何本もPKを止めたり、ビッグセーブを繰り返したりしても驚いてはいない」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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