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相手を煽るのも「心理戦で重要」 日本在住の恩師が語るW杯優勝アルゼンチンGKの凄さ

2023シーズンからJ1リーグに復帰する横浜FCに、日本との関わりも深い1人の外国人指導者が加わった。セットプレーコーチ兼アナリストに就任したのは、元アイルランド代表GKのジェリー・ペイトン氏。03年からイングランドの名門アーセナルで15年間にわたってGKコーチを務めたほか、3つのJクラブでの指導を経験し、21年からは兵庫県の相生学院高校サッカー部で監督として日本のユース年代の選手を教えてきた。

ビッグセーブを連発してアルゼンチン代表のW杯優勝に貢献したGKエミリアーノ・マルティネス【写真:Getty Images】
ビッグセーブを連発してアルゼンチン代表のW杯優勝に貢献したGKエミリアーノ・マルティネス【写真:Getty Images】

「元アーセナルGKコーチの選手育成論」第2回

 2023シーズンからJ1リーグに復帰する横浜FCに、日本との関わりも深い1人の外国人指導者が加わった。セットプレーコーチ兼アナリストに就任したのは、元アイルランド代表GKのジェリー・ペイトン氏。03年からイングランドの名門アーセナルで15年間にわたってGKコーチを務めたほか、3つのJクラブでの指導を経験し、21年からは兵庫県の相生学院高校サッカー部で監督として日本のユース年代の選手を教えてきた。

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 そんな世界トップレベルと日本のサッカー事情を知るペイトン氏の「選手育成論」に迫る短期連載。アーセナルで16歳の頃から指導したGKエミリアーノ・マルティネスが、カタール・ワールドカップ(W杯)でアルゼンチン代表の優勝に大きく貢献した。大会期間中も連絡を取り合っていた愛弟子の活躍を、ペイトン氏はどのように見ていたのか。W杯という世界最高峰の舞台で発揮されたGKとしての凄さについて、指導していた当時のエピソードを交えながら語った。(取材・文=加部 究)

 ◇ ◇ ◇

 2014-15シーズンに初めてアーセナルのゴールマウスに立ったエミリアーノ・マルティネスは、出場した試合では素晴らしいパフォーマンスを見せた。しかしアーセナルを指揮するアーセン・ベンゲルは「私が考えるナンバーワンGKは、ヴォイチェフ(シュチェスニー/ポーランド代表・現ユベントス)だ」と宣し、序列を覆すには至らなかった。

 マルティネスがアーセナルに入団した当初から寄り添ってきたGKコーチのジェリー・ペイトンは、今でも彼と緊密な関係を継続しており、カタールW杯の大会期間中にも連絡を取り合っていた。2022年まで兵庫県相生学院高校サッカー部で監督を務めていたペイトンは、W杯開幕前に生徒たちから予想を聞かれると、こう答えていたそうだ。

「(リオネル・)メッシは歴史上最高の選手だと思っているし、エミもいるから、きっとアルゼンチンが優勝する」

 ペイトンは力説する。

「私はエミに世界一のGKになってほしいと思ったし、またそうなれると本人にも言い続け、それを疑ったことはない」

 マルティネスはペイトンにとって、まさに愛弟子という言葉通りの存在だった。ペイトンは、ベンゲルとともに2018年にアーセナルを離れるが、その後もマルティネスとは頻繁に連絡を取り、結婚式にも出席した。

 ペイトンは、アーセナル在籍中に計14回もマルティネスをレンタルに出し、実戦経験を重ねさせた。シェフィールド・ウェンズデー、ロザラム、ウォルバーハンプトンなど英2部(チャンピオンシップ)のクラブでプレーをさせて、2017年にはスペイン1部のヘタフェに貸し出した。

「いつもレンタル先の監督には『今まで見たなかで最高のGKだ』と伝えてきた。エミは『どうしてそんなことを言うんだ』と怪訝そうなこともあったが、私はそう言って彼にプレッシャーをかけ続けた。なぜならアーセナルは世界でもトップ5に入るようなビッグクラブだ。正GKになれば、毎週6万人の観衆の前でプレーし、世界で1億5000万人のサポーターが見守ることになる。それでも平静を保ち、集中してプレーを楽しむ必要がある。エミには、それを自覚させたかった」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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