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W杯優勝アルゼンチンGKは「未熟だった」 日本在住の恩師が見抜いた16歳当時の才能

PK戦で勝負強さを見せたマルティネス、母国のカタールW杯優勝に大きく貢献した【写真:ロイター】
PK戦で勝負強さを見せたマルティネス、母国のカタールW杯優勝に大きく貢献した【写真:ロイター】

技術的に未熟もフィードやメンタル面に見えた輝き

 まだ英語も話せない16歳は、大きな夢を描いていた。それがアーセナルの守護神としてFAカップで優勝することと、アルゼンチン代表の正GKになることだった。

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「エミ(マルティネス)はフィードが正確で、戦術理解力もあり判断も早かったが、技術は本当に未熟だった。ボールをキャッチするのに両手を合わせてチューリップが開くような掴み方をしていたので、親指で支え、残る4本の指はボールの形状をなぞり三角形を作るように修正した。またステップを踏み、ダイブして遠くまでセーブできるようにしたし、南米のGKにありがちなのだが、セーブの際にボールを弾く手が逆になる癖の修正などを行った。一方で一般的に骨格は19~20歳頃にならないと完成しないので、筋トレを施したのはそれからだった。筋力強化については彼自身が学習し、30歳になった今でも成長し続けているよ」

 18歳になる頃には、別のコーチから「エミはトレーニングを見ていても良いとは思えないし、技術も未熟で、ここでは無理じゃないか」と言われた。

 しかしペイトンは、敢然と言い放つ。

「全く問題ない。私が彼をしっかりと導く」

 こうして18歳の誕生日から、ペイトンはマルティネスを週に4度はトップチームのトレーニングに参加させるようになった。

「当時クラブには、イェンス・レーマン(元ドイツ代表)やマヌエル・アルムニアが在籍し、さらに若いヴォイチェフ・シュチェスニー、ウカシュ・ファビアンスキ(ともにポーランド代表)らが加わり、やがて世界最高レベルの実力者ペトル・チェフ(元チェコ代表)やコロンビア代表主将のダビド・オスピナらが入団してきた。エミは、こうして錚々たる顔ぶれのGKと一緒にトレーニングを積むことで多くのことを学び、少しずつ成長していったんだ」

 2014年10月22日、マルティネスは22歳でアーセナルのゴールマウスに立つチャンスを得る。当時正GKだったシュチェスニーがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で出場停止処分を受けた。監督のベンゲルは、ペイトンにマルティネスの起用について相談してきた。

「ジェリー、我々は勝たなくてはいけない。意見を聞かせてくれ。エミはやれるのか」

「フィードも正確で、クロス対応にも優れ、セービングも長けている。とても冷静だし、性格的にも雰囲気を楽しめるタイプだ。絶対にできるよ」

 マルティネスは期待に応えた。3つの大きなセーブなどでチームを救い、アーセナルはアウェーのアンデルレヒト戦を2-1で制す。マルティネスは、見事にCLデビューを飾った。

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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