42歳で「今、青春してます」 19年前に日本記録を出した陸上・末續慎吾が走り続ける理由
「新宿や六本木の街中をこの速度で走っていたら『え?』って思うでしょ(笑)」
かつて投げかけられた質問の多くは「もう辞めないのか?」。それが、ここ数年は「なぜ走り続けるのか?」に変わってきた。金融系や医療系などの企業から講演依頼を受け、どの分野にも共通する「一つのことに対して誠実に向き合い続ける大切さ」について話す機会も増加。社会がスポーツにどんな価値を見出すのか。社会におけるスポーツの受け入れられ方は、時代の流れとともに「変わってきていると思いますよ」と話す。
ただ走り続けるだけでは「酔狂になってしまう」と話す。「スポーツに酔っていないというか、スポーツやってるからすごいんだ、とは思っていないんですよね」とも言い、その理由について独特の視点から説明する。
「速く走ることって実用性があるかと言ったら、100%ないんですよ。せいぜい電車に間に合うくらい。速く走ることが格好いいなんて一つも思ったことはないし、なんだったらちょっと恥ずかしいくらいですよ。多分、僕は日本で一番速く走る42歳で、レースという特殊な状況では格好よく見えることはあるかもしれない。でも、新宿や六本木の街中をこの速度で走っていたら『え?』って思うでしょ(笑)。自己完結させてしまったら、それは酔狂。本当の一流スポーツ選手とは、自分がやってきたことをきっちり別の誰かに渡せる手段を持っている人。より多くの人、違う分野の人にアウトプットできるのが素晴らしい、と僕は思うんですよね」
誰よりも速く走りたいというシンプルな想いを、真っ直ぐ競技にぶつけた20代。「走るのが好き」という気持ちに何かと理由をつけたくなり、考えることが増えた30代。そして、試行錯誤を重ね「一周回った」末に、再び「好き」という気持ちに戻った40代。ただし、同じ「好き」ではあっても、今の方が「よりシンプルに、でも内容は深かったりするんですけど」と微笑む。