国籍は関係ない 日本人ファンを魅了、北朝鮮ペアに垣間見たフィギュアの“本質”
「緊張していい滑りではなかったけど、スコアは思ったよりも高かった。3位に入ることができて、大変満足している」北朝鮮勢、今大会初のメダルを獲得したキムは表情を緩めた。
日本のファン魅了、投げ入れられた花と大歓声「アットホームな雰囲気だった」
迫真の演技で踊り切ると、リンクが大歓声に包まれた。25日に行われたアジア大会、フィギュアスケート・ペアのフリー。北朝鮮のリョム・テオク、キム・ジュシク組が合計177.40点で総合3位。見事、銅メダルに輝いた。
「緊張していい滑りではなかったけど、スコアは思ったよりも高かった。3位に入ることができて、大変満足している」
北朝鮮勢、今大会初のメダルを獲得したキムは表情を緩めた。3連続ジャンプをそろって決めるなど、質の高い演技を披露。スコアの177.40点は自己ベストというから、価値がある。
印象的だったのは、そのスケーティングで日本のファンも魅了したことだ。リンクに登場すると、日本人が大半を占める客席から期待の拍手を受け、滑り終えると、客席から大歓声を浴びた。2人の演技への評価を示すように、次々と花が投げ込まれていった。
「アットホームな雰囲気だった」と演技後、キムは言った。在日朝鮮人の応援団も駆けつけていたが、キムが感じた「雰囲気」は会場全体によって作り出されたものだっただろう。そこに、フィギュアの“本質”が垣間見えた。
美しさを競うスポーツらしさを象徴するシーン
フィギュアスケートは美しさを競うスポーツといわれる。
美しい演技をした者に拍手を送り、ファンは讃える。決して多くはない採点競技。競技に情熱をかけ、懸命に取り組んでいる選手に、国籍は関係ない。ファンにとっても情報が少なく、今大会初めて見た観客もいただろう。そんな北朝鮮ペアの演技後に起こった出来事は、フィギュアらしさを象徴するシーンでもあった。
演技後、ミックスゾーンには注目度の高さを示すように、他国選手としては多い、約15人の記者が日本メディアを中心に集まった。事前に「質問は大会に関するもののみ」とアナウンスされていたが、現れた2人は時おり笑みを交えながら“日常”を明かした。
普段は北朝鮮の女性コーチの下、トレーニングに励んでいること。その練習は1日に氷上で3時間、陸上で4時間、みっちりとこなしているということ。日本の印象について問われると、キムは「非常に暖かいです」と率直な感想を語った。
表彰式を終えて登壇した公式会見の最後には1、2位の中国ペアとそろって記念撮影にも応じた。今後は3月の世界選手権を目指すといい、リョムは「貴重な経験を積むことができた。さらに高いスコアを世界選手権で目指したい」と意気込み、キムは「今回の教訓、経験を生かしたい。世界のトップのレベルになりたい」と決意を明かした。
その成果を日本の地で示し、日本のファンに受け入れられた北朝鮮ペア。果たして、アジア大会で確かな印象を残した2人は今後、世界の舞台でどんな舞いを見せてくれるだろうか。
【了】
ジ・アンサー編集部●文 text by The Answer